メニュー

決済から読み解く流通争奪戦その3 調査でわかった!キャッシュレス決済導入の3つの大きな効果とは?

前回は、中小事業者(ショップ)のキャッシュレス決済導入状況についてレポートしました。キャッシュレス導入率が1年間で34.6%から49.6%に大きくジャンプしたこと。その飛躍を牽引したのは、モバイル決済であるという内容でした。では、キャッシュレス決済を導入したショップでは、その効果を感じているのでしょうか。「世の風潮に乗って、キャッシュレス決済を導入してみたものの……」というショップが多いのではないでしょうか。
前回同様、電通ビジネス共創ユニットで、キャッシュレス・プロジェクトを推進する吉富才了(よしとみ・まさのり)氏をまじえ、対談形式でわかりやすく解説します。

キャッシュレスがライフスタイルを変える!

佐藤:キャッシュレス決済を導入済みの中小事業者は約半数に達した、という調査結果が得られました。これらのショップでは、導入後にどんな効果があると感じているのでしょう。

吉富:キャッシュレス決済の導入効果を質問したところ、最も多かったのが「客層が広がった」(15.2%)という回答でした。とくに、社歴が短いところ、経営者が30代のショップがそう感じているようです。これまでの常連ではなく、新規客が増えたと感じているところが多いと見られます。

佐藤:「客層が広がった」がトップというのは意外ですね。消費者調査では、83%がキャッシュレス派(現金よりもキャッシュレス決済手段を使う人たち)でした。キャッシュレス決済を利用しようと思っても、(店舗側が)受け付けていないため、あきらめて現金を使っていた。そういう人が、キャッシュレスを受け付けているショップに流れていると考えられます。キャッシュレス決済の導入には、新規客獲得というメリットがあるのですね。

吉富:私の知り合いの奥さんは、キャッシュレスを受け付けているショップをわざわざ探して行くと言っていました。キャッシュバックやポイントが貯まるからです。

佐藤:キャッシュレスが生活者のライフスタイルを変えていますね。とくにモバイル決済は、近くの加盟店を地図上に表示したり、クーポンを配信したりという、きめ細かな情報提供が可能です。現金だと、そうはいかない。

1日平均31分も!?現金決済に関わる作業時間

吉富:2番目の理由は「つり銭を用意する手間が減った」(14.8%)です。今回の調査では、つり銭の用意にかかる時間は、最短で7分、最長で60分もかかっているという実態が見えてきました。

佐藤: 1時間もかかっているショップがあるのですか。つり銭用意の手間を減らせるのはありがたい。

吉富:現金決済に関わるめんどうな作業時間は、それだけにとどまりません。「売上集計」では平均13分、最大90分もかかっています。「現金精査」では平均10分、最大85分。「夜間金庫への投入」は平均2分、最大30分。売上規模が大きくなるほど、現金にまつわる作業時間が増えているようです。

佐藤:1日の現金に関わる作業時間を単純に合算すると、平均31分、最大265分(4時間強)ということになります。現金の取り扱いは、中小事業者にかぎらず大変な負荷になっていますね。

吉富:はい、そのとおりです。キャッシュレス導入効果の3番目は「レジ作業の時間が短縮できた」(10.2%)でした。現金のやりとり、とくに小銭のやりとりは、レジに並んでいる人にとってストレスです。

コンビニで顕著な効果!?

佐藤: 地方のスーパーマーケットでは、キャッシュレスを導入してレジ要員が減ったというところもあります。これまでは7人かかっていたのが、6人で済むようになったそうです。そのほか、とくにキャッシュレス導入効果が高かった業種・業態はありますか。

吉富:コンビニエンストアでは「レジ作業の時間が短縮できた」という回答が全体の40.0%でした。そのほか、「スタッフのつり銭の支払いミスが減った」が33.3%、「生産性の向上につながった」が26.7%、それぞれ回答がありました。

佐藤:消費者にキャッシュレス利用場所を聞いたところ、最も利用が多かったのはコンビニエンスストア、2位はスーパー、3位はドラッグストアでした。キャッシュレス利用が多いコンビニエンスストアでの導入効果は顕著ですね。

吉富:キャッシュレス利用が多ければ多いほど、導入効果も高くなる傾向があります。ドラッグストアの効果でトップは「客層が広がった」(40.0%)でした。「レジ作業の時間が短縮できた」と「売り上げが上がった」はそれぞれ20.0%でした。

佐藤:キャッシュレス決済の導入店舗では、客層が広がったほか、生産性や売上が向上したなどの導入効果を実感しているようですね。キャッシュレス決済を導入しなければ、熾烈な生き残り競争に勝てない時代に突入していると言えるかもしれません。

佐藤 元則

1952年生まれ。関西学院大学卒。1989年にカード・決済の専門コンサルティング会社、アイエスアイを設立。日本初の自由返済型クレジットカードや国際ブランドつきデビットカード、世界初のバーチャルプリペイド発行システムを開発するなど決済の領域で多数の実績を持つ。1997年から日本カードビジネス研究会(現NCB Lab.)代表に就任。現在に至る。セミナーやコンサルティング、執筆稼活動に精力的に取り組んでいる。

日本初、キャッシュレス&フィンテック専門Webライブラリ

約30年間蓄積してきたコンサルティングノウハウをもとに、世界中で進むキャッシュレスやフィンテックの動向をレポート。金融・決済の本質を見抜くための情報が揃ったWebライブラリ

NCB Library ページへ

※このプロフィールは、DCSオンラインに最後に執筆した時点のものです。

吉富 才了(よしとみ まさのり) 

電通 ビジネス共創ユニット キャッシュレスプロジェクト 米系コンサルティング会社、欧州系投資銀行を経て、電通入社。 金融(銀行、証券、保険など)、通信、自動車、飲料、トイレタリー、医薬品などのクライアントの新事業開発、マーケティング・ブランド戦略、PRに従事。 「金融破壊者たちの野望」(東洋経済新報社)「コーポレート・レピュテーション」(ADVERTISING)「CSRとコーポレート・レピュテーション」(日経ブランディング)など。 日本証券アナリスト協会検定会員

※このプロフィールは、DCSオンラインに最後に執筆した時点のものです。