食品のEC市場は、コロナ後の反動減もなく拡大を続けています。経済産業省が8月に公表した22年の食品EC市場(食品、飲料、酒類)の規模は、前年比9.15%増、推定2兆7505億円でした。EC化率は4.16%で、初めて4%台に達しています。食品販売のオンラインシフトは、どこまで進むのか? 一口に食品といっても購入目的や用途は多岐にわたるので、一概には言えません。ここでは、最も日常的な買い物であるネットスーパーと、年1回の機会である予約おせちの現状から、食品のEC化率の今後を考えます。
スーパーのEC化率は将来10%に?
食品のEC化率が4%では、まだ劇的な変化とはいえないかもしれません。例えば店舗出荷型のネットスーパーの場合、かねてよりヤオコーの川野澄人社長は「店舗売上の5%を構成するようになると、店舗段階の黒字化が見えてくる」と語っています。もちろん経産省統計の4.16%とヤオコーの数値は別のものですが、食品のEC化率が5%台まで上昇するような市場になれば、ネットスーパーの収益化も可能になるのかもしれません。
ではスーパーマーケットでの購入は、どこまでEC化するのか? 川野社長は先程の話に続けて「将来は10%くらいのシェアになるのではないか」と話していました。この見立ては、他社の計画にも通じるものです。ライフコーポレーションは、2030年度に売上高1兆円を掲げており、このうちネットスーパーは1000億円規模を想定しています。また西友は、2025年に目指す姿として店舗とネットの売上高9000億円、うちネットスーパーは1000億円以上としていますから、構成比11%ほどの計算になります。
購入頻度も金額も大きいスーパーマーケットでの買い物が、計画通り10%もEC化するとしたら、経産省の統計におけるEC化率も、これと似た数値になっても不思議ではありません。さらに上振れする可能性もあるでしょう。食品購入の特定分野では、すでにEC化率50%も現実になりつつあるからです。
予約おせちはEC化でさらに伸びるか?
食品EC化率がリアル店舗を上回ろうとしているジャンル、それが予約おせちや、中元・歳暮のギフト市場です。東武百貨店の中元・歳暮のEC化率は50%を目前にしており、イオンリテールの予約おせちはネット経由が約40%と言います。また、大丸松坂屋百貨店は昨年の歳暮ギフトのEC化率が36%で、洋菓子に限れば50%に達しました。同社の予約おせちのネット申し込みは、去年が構成比47%、今年は50%を目指しています。
予約おせちに話を絞ると、この市場はコロナ禍の間に売上を伸ばしました。大丸松坂屋の場合、前期実績は19年比で27%増にもなりました。今期はさらに5%増を計画しており、需要はなお旺盛と見ています。ただ、おせちは予約商品の引き渡しが31日に集中するため、製造も店頭対応もキャパに限界があります。その制約を超えるための方法が、EC強化であり、それに付随して冷凍おせちの比率アップを図っています。
予約おせちの注文が店頭経由ではなくEC主体に変われば、来店しなければならない制約を超えて顧客の拡大を見込めます。そのような客層は、引き渡しも店頭ではなく宅配を選択する可能性が高いでしょう。大丸松坂屋は、全国配送を前年比20%増とすべく販促を仕掛けます。そして広域への配送には冷蔵よりも冷凍おせちの方が適しており、製造側も冷凍の方がより多く作り込むことが可能になります。
全国配送が標準の楽天市場の場合、出店企業の予約おせちは7割が冷凍と言います。大丸松坂屋の冷凍おせちの構成比は1割ほどにとどまるそうで、冷凍おせちを伸ばすことに、コロナ後のさらなる成長余地を見出しています。
おせちのように予約注文の食品の場合、そもそも現物を見て購入するわけではないのでネットとの親和性が高いのは道理です。すでにEC化率40~50%という事例がある以上、全体の水準がこのレベルまで高まることは予想できます。とはいえ、ネットスーパーのような日常的な食品の買い物までが予約商品の水準まで高まるかというと、現状でそこまでの将来像は描けないでしょう。2030年前後に大手のネットスーパーの売上げ比率が目論み通り10%に近づいているかどうかです。その水準でも、リアル店舗に及ぼす影響は十分に衝撃的になると思われます。