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「儲けるためのPB」という常識を否定! なぜロヂャースの低価格PBはお客の支持を集めるのか?

ロヂャースを首都圏に展開する北辰商事は日本初のディスカウントストアを開発したパイオニアとして知られる。その北辰商事はプライベートブランド(PB)「mikai(マイカイ)」の展開を2015年からスタートしている。大手小売業の設定粗利益率の約半分という低粗利率のPB を戦略的に開発し、「品質に比べて非常に割安」なPB商品を次々と開発し、それを武器に業績を拡大している。開発当初から陣頭指揮をとってきた太田順康社長に、強いPBを実現するためのポイント、そして今後の商品戦略について聞いた。

1973年に国内初のDSとしてオープンした「ロヂャース浦和店」

PBの缶チューハイが「氷結」を抜く

──PB「マイカイ」の最初のヒット商品について教えてください。

北辰商事 代表取締役社長 太田順康氏

太田 最初に開発したPB商品は缶チューハイの「無敵ikka STRONG CHU-HI」(360ml・税抜78円:以下同)です。当時すでに低価格PBの缶チューハイは市場に多く存在していました。しかしお酒に強くない私は、どれを飲んでもすぐに頭が痛くなりあまり量を飲むことができませんでした。

「ナショナルブランド(NB)商品ではそのようなことはないのになぜだろう」と思い原因を探ると、低価格のPB商品が原料に使っている「醸造用アルコール」に問題があることがわかりました。NBでは醸造用アルコールの代わりに「ウォッカ」を使用しているのです。

 PBの製造コストを抑えるための策なのですが“安かろう悪かろう”という発想では本当に支持される商品にすることはできないと考え、「マイカイ」ではウォッカを原料に使いました。そのぶん製造原価は1缶約60円と高くなりましたが、価格が競争力を左右するため78円で販売しました。ディスカウントストアだからこそ挑戦できたようなほとんど儲けがでない商品なのですが、発売後、同カテゴリートップの麒麟麦酒の「氷結」を一時的に抜くほど売れました。この成功体験により「品質にこだわったPBをつくればお客さまは必ず支持してくれる」と確信することができ、われわれの大きな自信になりました。

──PB商品の開発はどのような体制で行っているのですか。

太田 私を含む数人で構成する社長直轄の特命チームが中心になって開発を進めています。「こだわり」と「独自の視点」の2つを重視し1品1品丁寧につくることを大切にしています。

商品によっては1年以上の開発期間をかけたものもあります。たとえば、生麺タイプの味噌ラーメンを開発したときは試作を10回以上繰り返しました。1回の試作でサンプルを10種類ほど用意しますから、合計すると100種類以上をボツにしたことになります。このときは101回目でようやく商品化できました。それくらい妥協せず品質を追求しているのです。現在は本社4階に、テストキッチン付きの専用スペースも設置して開発を進めています。

──今後、PB開発を進めたい注目カテゴリーはありますか。

太田 EU(欧州連合)諸国からの直輸入商品です。今年2月からのEPA(経済連携協定)の発効により、関税が段階的に撤廃されることになり、今後価格競争力が出てくるからです。

直輸入商品としては、18年12月からスペインのピザを「マイカイ」の商品として1枚398円で販売し好評を得ています。今後EU経由の商品では食用油のほか、クッキーやチョコレートなどの菓子類を強化していきたいですね。競争力の高い商品を見つけるべく海外の食品展示会にも積極的に足を運んでいます。

「ロヂャース」の店頭ではPB「マイカイ」を徹底的に露出させて売り込む。カテゴリーを横断してPBを集積した「マイカイ」コーナーもある

 

PBをカテゴリーごとにブランド化

──PB開発で目標としているところはありますか。

PB商品は、シリーズで統一したデザインを採用するのではなく、それぞれの商品の魅力を訴求できるパッケージにこだわっている

太田 ドイツ発のハードディスカウンターであるアルディ(Aldi)やリドル(Lidl)のPB商品を手本にしています。

多くの日本企業ではPB商品に統一のデザインを採用していますが、売場に多く並ぶと非常につまらない印象になってしまいます。一方アルディやリドルは、PB商品をカテゴリーごとにブランド化しています。そのほうがお客さまが選ぶ楽しさを感じられる売場を演出できると考えています。

──今後のPB商品開発の方向性を教えてください。

太田 PB商品のよいところは、独自商品のため競争が存在しないことです。強い商品さえ開発できれば、競合他社との不毛な価格競争に巻き込まれずに済むのが魅力です。

またNBと比べ多くの粗利益も得られるようになるため、それを原資に新規出店をはじめとしたさまざまな施策を打つことが可能になります。強いPBを持つことはそれほど重要なことであり、今後の食品小売業界で勝ち残るためのポイントだと思います。まずは早期に売上高に占めるPB比率20%をめざします。

──将来的にSPA(製造小売)企業をめざす考えはありますか。

太田 そこまでの考えはありません。それよりも「マイカイ」をさまざまな企業が扱ってくれることをめざしています。より大きなスケールメリットを発揮するべく、同じ方向性を持つ企業同士で協業し、ともに「マイカイ」を開発、販売していける環境の構築を進めていきます。またM&A(合併・買収)についても、SMを中心によい話があれば積極的に検討していきたいと考えています。