クオリティの高いオリジナルブランドと国内外のデザイナーズブランドのセレクトショップとして、全国7カ所にショップを展開するエストネーション。2001年に東京・有楽町からスタートし、コロナを機により「上位シフト」を目指すことで、前期売上はコロナ前と同等水準を維持し、セール時期を除く定価販売の各月はコロナ前を上回るなど好調が続く。好調の理由はどこにあるのか、サザビーリーグ(東京都/角田良太社長) エストネーションカンパニー カンパニープレジデントの大田直輝氏に話を聞いた。
高い客単価を維持
エストネーションが当初からターゲットとするのは、ファッションへの興味が強く日頃からファッションを楽しみたいと考える意識の高い顧客だ。オリジナルのエストネーションブランドのTシャツで1万円前後からという価格帯。客単価は6~7万円程度と極めて高く、顧客と丁寧に向き合い接客することで成長を続けてきた。有楽町のほか、六本木、二子玉川、横浜、京都、大阪、神戸と大都市に店舗を構え、中でも六本木ヒルズ内にある六本木ヒルズ店は大型だ。長引くコロナの影響がかなり大きかったのではないかと想像する。
ところが、前年度は通期でコロナ前と同等の売上を維持し、セール期間の6月、7月、1月を除く月はすべてコロナ前を上回るという好調ぶりだ。
「顧客へのフォーカシングを徹底的に強めたことで、逆に店舗に足を運ぶ人にエストネーションの価値観がストレートに響いたのではないか」とカンパニープレジデントの大田直輝氏は話す。
実際、同社はECへの顧客の誘導などは特別行わず、コロナ禍でも変わらず実店舗での接客を基本とし、これまで通りファッションの楽しみを提案する営業スタイルを貫いている。
来店客数減を見越してオリジナルブランド価格を1.2倍に
コロナを機に同社が明確に打ち出した戦略は「上位シフト」。「より高感度、高付加価値な商品を展開し、上を目指す戦略。ファッション業界では二極化が進んでおり、上位シフトの方が確実に生き残れる」と大田氏は強調する。
店舗への来店数は通常の7~8割になると予測し、より付加価値の高い商品を揃えようとオリジナルブランドの価格設定を従来の1.2倍に設定。セレクトブランドの価格上昇にも伴い、来店客数は減ったものの客単価は上がっていった。
価格帯が上がったことに対して、顧客からマイナスの反応はない。「お手頃だから買うという判断材料ではなく、良いものを長く着たいというマインドのお客さまが増えた。サステナビリティの後押しもあって、高品質にこだわる当社の価値観を理解し、よく吟味してセール商品よりも正規価格の商品を買おうという意向も強い。消費スタイルが変わってきたと感じている」(大田氏)
コロナ禍で特徴的だったのは、来店客の9割近くがリピーターである会員顧客であったこと。テレワークの推進によって出社率4割台という状況が続いた有楽町店は苦しんだ一方で、同じく出社率が3割と低くても住宅棟と隣接する六本木ヒルズ店、さらに二子玉川店は好調だった。特に大型店舗の六本木ヒルズ店には富裕層の顧客が多く来店し、一定層が売上を牽引する形となった。
キーワードは「背伸び消費」
同社ではブランドの新陳代謝を高める戦略も強化している。「現在では、会員顧客以外の新規のお客さまも少しずつ増加しているが、これまで通りのラインナップではずっとエストネーションに通ってくださっている既存のお客さまにはどうしても飽きがきてしまう。この点を打破するために、前年度から新しいブランドを3割投入することを前提とした戦略にシフトした」(大田氏)
そこで、ブランド開発や買い付けの指標となっているのが、ウィメンズではモード、コンサバティブ、カジュアルのテイストを中心としてターゲットを12分割した「ターゲットMAP」だ。店舗づくりもこのMAPと連動したラインナップを取り揃えながら行っている。
一方で、六本木ヒルズ店を例に実際に購入した顧客のペルソナを分析すると、ターゲットに合致した顧客の割合は、実際は2割にも満たないという。「残りの8割程度は、ターゲットに憧れているフォロワー層。『あの人に憧れているから』『あの人のようになりたいから』という想いをもったお客さまに、やや背伸びをして購入していただく構図になっている」
実際に購入している顧客のありのままの姿にターゲットを置くのでなく、少し背伸びをしてでも「なりたい自分」に近づくための商品を展開し訴求していくのがエストネーションの戦略だ。
高付加価値提案で富裕層シフトを強化
過去にはオリジナルブランド中心の展開をしていた時期もあるが、現在ではオリジナルブランドの割合は35~40%程度、六本木ヒルズ店では20%程度で、国内外のハイブランドを取り揃えるセレクトショップとしてのポジションを確立している。大田氏は「アパレルの小売として、唯一無二の存在だと自負している」と話す。
オリジナルブランド、買い付けブランドともに、ディテール部分にまでデザイン性があり上質感のある素材を選ぶなど、高価格でも付加価値のある商品を追求した提案を続ける。顔のわかる顧客管理にも力を入れ、店舗スタッフは昔ながらの電話やメールでのコミュニケーションを大切にし、新商品が入荷すればこまめに連絡をとるなど、密な信頼関係をつくることにこだわる。
EC化が進むファッション業界において同社のEC化率は減少傾向にあるが、この点は肯定的に受け止めている。「デザインのディテール性が強いので、ECにはあまり向かないのが現実。店舗でまとめて買っていただくのが同社の主力の販売形態であることは変わらないと考えている。ただし、まだまだアプローチできてない地域もあるので、店舗に来られない方のためにECをもっと充実させる必要はある」(大田氏)
一方、実店舗については、富裕層が集まる地域の店舗は大型化を進め、同じ出店エリアでもターゲットMAPに合う施設への入店の検討を進める。また今年6月には、大阪店の移転増床オープンを予定している。「車での来店も想定して駐車場のあるビルに移動し、六本木ヒルズ店に近いブランドラインナップとターゲットの幅を広げた店舗にしていく。高感度、高付加価値な提案により磨きをかけていきたい」(同)