福岡県のほか、山口県、熊本県で店舗展開するハローデイ。主な商勢圏とする九州は、競争が厳しく、食品の扱いが大きいドラッグストア(DgS)はじめ異業態も台頭。その中「楽しい食の提案」を掲げ、独自の品揃え、売場づくりで強い支持を獲得する。今後の事業展望や戦略について、同社の加治敬通社長に聞いた。
聞き手=阿部幸治(本誌) 構成=森本守人(サテライトスコープ)
生鮮DS業態が各地で台頭
──競争環境はいかに認識していますか。
加治 当社は福岡県北九州市に拠点を置き、福岡県、山口県、熊本県で店舗展開しています。多くの店舗がある九州は、全国的に見ても競争が激しく、食品スーパー(SM)のほか食品を積極的に扱うDgS、ディスカウントストア(DS)といった異業態も勢力を増しています。集客力強化をねらい、DgSの中には生鮮食品を販売する企業もあり、いずれはホームセンター業態でも食品を取り扱う企業が出てくるのではないかと考えています。
──近年の業績推移を教えてください。
加治 厳しい状態が続いています。私が入社した1989年、会社は倒産の危機に瀕していましたが、その後、試行錯誤により業績が回復。以来約30年間、増収を続けてきました。既存店実績も92年以来、ある1年を除き前年をクリアしてきたのですが、5年ほど前から状況が変わり、上がったり下がったりと安定しません。2019年3月期は減収、既存店売上は過去2年、前年を割り込み、今期もクリアするのは容易なことではありません。
原因は競争激化にあります。DgSによる影響は限定的ですが、近年、生鮮食品を取り入れたDSが各地で台頭し、店数を急速に増やしていることが大きい。当社では、前期に新店1店を出したものの、既存店の減少を埋めきれませんでした。
──そうした中、今後はどのような方針で事業展開していきますか。
加治 従来の成功体験にこだわらず、新たな戦略を実行していきます。
まず組織面では教育に力を入れ、従業員の意識を改革、「自ら考え行動する企業風土」を醸成します。また競争激化でコスト構造が大きく変化しているのを受け政策を転換。従来、生鮮食品はインストア加工にこだわってきましたが、プロセスセンター(PC)の開設を進め、店舗の効率化を図ります。出店政策では新フォーマットの開発も検討します。そのうえで当社がテーマに掲げてきた「楽しい食の提案」に取り組み、厳しい競争時代を勝ち抜く考えです。
多様な食を体験する研修
──「自ら考え行動する企業風土」づくりを進める理由は何ですか。
加治 当社は長い間、アメリカのホールフーズマーケット、ウェグマンズといった高質SMを参考にして業績を伸ばしてきました。
しかし現在、日本の人口は減少、つまり食品マーケットが縮小を続けており、今も人口が増えるアメリカを手本にし続けるのはベストとは言えません。
また今後、ビジネスを取り巻く環境を予想するのは難しくなっています。従来は、社長の考えた戦略を従業員が実行する、「トップダウン型」の経営で事業を伸ばすことができました。しかし今後、起こるであろう事象が不確実な時代にあっては、皆がそれぞれ考え、「行動する組織」こそが生き残れる企業だと考えるからです。
──具体的には、どのような施策を行いますか。
加治 3年前から、「コロンブスプロジェクト」という研修プログラムをスタートしています。
年間3000万円の予算を計上し、国内外の各地を回って多様な食を体験、ビジネスのヒントを得て、戦略立案能力を育成するという内容です。
以前から店舗の改善活動を実施しており、その発表の場として定期的に開く大会で優秀チームに選ばれた従業員が研修に参加します。各地で得たヒントや刺激、題材などをもとに研修後、店舗では「北海道フェア」「長野フェア」など、物産展のような企画を実施するのですが、毎回どこも素晴らしい売場をつくっています。それを見た他店の従業員が、「私たちもコロンブスプロジェクトに参加したい」と、意欲的な雰囲気の輪が広がっています。
──楽しそうなプロジェクトですね。
加治 いえ、これはあくまで研修であり、ときには厳しく叱ることもあります。参加している間は、少しの時間もムダにせず情報を収集し、考える習慣を身に付けてほしいのです。
たとえ飛行機に乗っている間でも、お土産用カタログを見て感じ、考えられることがあるはず。その習慣を身に付けることが、難しい時代の波を乗り切る重要なキーになります。そのため、抜き打ちで「飛行機に乗っていた間、どんな新しい発見があった? 何をしていた?」というように質問を参加者全員にし、緊張感を持たせています。
研修は、今年で4年目に入り、従業員の発想、行動は大きく変化してきたと感じています。企業にとって最も大切な人財を生かし、新たな戦略を実行していく考えです。
PCプロジェクト始動!
──新たに計画しているPCについて教えてください。
加治 当社SMは、生鮮食品を強化した品揃えが特徴で、それを行うための重要な手法がインストア加工です。店内で素材を加工することで、鮮度劣化を極力抑えた商品を提供できます。しかし商勢圏では競争が激化しており、コストを低減した運営が不可欠になってきています。
10年ほど前、競合各社がPCを取り入れたのを見て、当社も検討したことがあります。しかし当社の強みである鮮度という武器を手放すことになると考え、踏みとどまりました。今回、雇用環境の変化も鑑み、当社も導入することに決めました。すでに用地は確保してあり、3年後の稼働を目標に準備を進めています。
──PCはどのように活用する考えですか。
加治 プロジェクトはスタートしたばかりで、あくまで計画段階ですが、PCを使い、ローコストで豊富な品揃えを維持していきたい。
また豚肉や鶏肉はPCで加工し、付加価値があり、競争優位性につながる牛肉は店内で加工するなど、メリハリをつけながら活用していく考えです。
──PCとインストア、それぞれのいいところ取りをめざすわけですね。
加治 プロジェクトのメンバーに話しているのは、同じPCを導入するにしても、工夫とアイデア次第では、他社とは違う鮮度感ある商品をつくれる施設になるはずだということです。当社は、九州で最も鮮度感ある商品を提供し、支持されているSMだと自負しています。そのノウハウを生かすことで、他社にはマネのできないPCをつくりたい。「自ら考え行動する企業風土」は定着しつつあり、皆が知恵を出し合うことで実現は可能だと思います。
福岡市中心部で出店
──今後、どのような出店政策で臨みますか。
加治 近年、当社が標準フォーマットとしているのは、売場面積400坪のSMです。店があるのは福岡県、熊本県、山口県ですが、今後は人口が集中する福岡市中心部を主な出店エリアとして考えています。
出店形態は、集客面から単独店では難しい時代ですから、自らが近隣型ショッピングセンターなど複合商業施設を開発しテナントを誘致するほか、大型商業施設へテナントとして入るかたちを想定しています。
──そうした立地は、全国的にも奪い合いの様相です。
加治 ええ。福岡県でもすでにオーバーストアで、よい立地はすでにどこかの企業が押さえています。その中、出店を続けようと思えば、これまでの規模のSMだけでは成長は難しく、小型化も視野に入れています。具体化していませんが、30~50坪程度の小型SMも検討する価値はあると見ています。
──小型店で、既存のドミナントエリアを強化するのですね。
加治 その場合、都市部で需要の大きい、料理のセットを充実させるのも一案。将来、稼働するPCを使って、「個食」「簡便」商品を加工することも可能です。詳細はこれからですが、各従業員が自ら考え行動することで、競争力あるSMの新フォーマットを構築できればと構想を練っているところです。
──最後に、消費増税後の対応について教えてください。
加治 増税後、異業種を含めた競争がさらに激化するものと見ています。中小のSM各社は資本金を5000万円以下に減資し、キャッシュレスポイント還元事業の対象企業となることで当面の影響を抑えようとしています。当社も6月11日時点で資本金は5000万円ですから、その対象です。この激変の環境を生き抜きながら、今申し上げた戦略を着実に実行していきます。
ハローデイ会社概要
設立 | 1958年 |
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資本金 | 5000万円 |
本部所在地 | 福岡県北九州市小倉南区 |
売上高 | 833億7400万円(19年3月期) |
店舗数 | 54店舗 |