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これからもエービーシー・マートの1人勝ち? 靴専門チェーンの動向を分析!

日本人の靴消費は年間約7億足と言われており、これは1人当たり年間5足購入している計算となる。経済産業省の調べによれば、国内の靴・履物市場は長らく1兆4000億円前後を横ばいで推移している。全体のパイが増えない中で、最近はECが勢力を拡大しており、リアル店舗にとって厳しい状況が続く。本稿では、靴市場全体の動向や、エービーシー・マート(東京都)を筆頭とする靴チェーンの動向を見ていきたい。

“1強状態”を築いたエービーシー・マート

 靴専門チェーン最大手、エービーシー・マート(東京都/野口実社長)の創業は1985年。アパレル・シューズの輸入商社「国際貿易商事」としてスタートした。

 エービーシー・マートの設立は1990年。渋谷や上野に4店舗をオープンし、そこから快進撃が始まる。20年間と少しでチヨダ(東京都)を追い抜き、業界トップの座に躍り出て、2019年には国内1000店舗を達成した。

 2022年2月期の売上高は2439憶円で、2位のチヨダ(886憶円:2022年2月期)を3倍近く引き離す。市場シェアも2割近くに達する。

 成長性も悪くない。2000年の上場以来、18期連続で増収を続け、コロナ影響を大きく受けた2021年2月期決算は上場後初の減収に見舞われたものの、翌期には再び増収を果たした。最近は、人流活発化やインバウンド復調を受けて既存店売上高も回復傾向にあり、2023年2月期業績はコロナ前を超える見通しだ。なお、既存店売上高は、22年3月期が4.5%増(上期+5.6%、下期+3.7%)、23年3月期は14%増(上期+8.1%、下期+19.8%)だ。

 2010年代前半まで2ケタの売上成長を続けてきた同社だが、近年の伸び率は1ケタ台と安定成長期に入っている。セグメント別の売上高を見ても、成長エンジンとする海外事業だけでなく、7割を占める主力の国内事業も安定的に伸びていて死角はないと言っていい。

収益性も抜群!

 収益性も高い。コロナ禍が直撃2021年2月期を除き、売上高営業利益率は2ケタ台を維持しており、2022年2月期決算では11.3 %と小売業界でもトップクラスの収益性を誇る。まもなく通期決算が発表される23年3月期決算も、第3四半期までの累計では売上高営業利益率13.9%だ。

 「NIKE」「adidas」といった世界的なスポーツブランドは近年、販売チャネルを選別する動きを見せており、有力チェーンに対して優先的に人気アイテムを供給している。エービーシー・マートに行かないと手に入らない商品も多く、「強い店がますます強くなる」という状態が続いている。

 圧倒的な販売力は、PB(プライベートブランド)の展開にも有利に働く。エービーシー・マートは「HAWKINS」「VANS」といった有名ブランドの商標権を握っており、自ら商品企画・開発も手掛けている。そのほかの有名ブランドとも「エービーシー・マート専売商品」を共同開発しており、そうした専売商品は通常よりも高い粗利益が期待できる。PBや専売商品が占める売上高は、全体の6~7割に達するとも言われている。

 まもなく発表される23年2月期決算に注目したいところだ(業績予想は売上高2740億円、営業利益345億円、当期純利益232億円)。

ABCマートの背中を追う2番手、3番手

 そんなエービーシー・マートの背中を負うのは2番手のチヨダだ。「東京靴流通センター」を中心に、「靴チヨダ」「シュープラザ」などの屋号で全国に店舗を展開する同社。エービーシー・マートが駅前の一等地や大型ショッピングセンターのテナントとして展開するのとは対照的に、「東京靴流通センター」は6~7割がロードサイドの大型店となっている。集客力で劣る一方で、家賃などの運営コストを抑えることができるため、低価格帯中心のラインナップでも採算がとれるというモデルだ。

 かつては靴の激戦地で知られる上野でエービーシー・マートと激しいつばぜり合いを演じたチヨダだが、直近の業績を見るとその面影は感じられない。2009年2月期に1700億円あった売上高は、直近期(2022年2月期)で886億円にまで落ち込み、営業利益は3期連続で赤字に沈んでいる。なお、まもなく発表される23年2月期決算が発表されるが、事前の通期業績予想でも営業利益は赤字の見通しとなっている。

 靴専門店チェーン3番手の位置につけるのが、イオン(千葉県)グループの靴販売チェーンのジーフット(東京都)だ。「ASBee」「NUSTEP」などの屋号で展開する同社。筆頭株主であるイオンの持ち株比率は6割を超えており、店舗も大半がイオングループの商業施設内にある。

 売上高は2016年2月期をピークに低下を続けており、営業利益は3期連続で赤字と業績は低調だ。一時は債務超過に陥り、イオンからの第3者割当増資で延命されている。現在も再生途上で、23年2月には、イオンから50億円の資金借り入れも発表している。早急に大きな改革が必要であることは間違いない。

 2番手以下が不振にあえぎ、“向かうところ敵なし”のエービーシー・マートだが、気になるのは「NIKE」「adidas」をはじめとした人気ブランドの「直販シフト」の動きだ。ECの普及により、ブランドは顧客と直接つながれるようになっており、自社EC・アプリや直営店での販売が急伸している。量販店で販売されることによるブランド毀損の問題も直販シフトに拍車をかけている。

 「NIKE」の直販比率は4割に達しており、靴専門店チェーンにとっては明らかな脅威となっている。こうした状況に対し、靴専門店チェーンはどのような戦略を打ち出していくのか。1強とはいえ、エービーシー・マートも安穏としていられないはずだ。