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「生鮮販売、ねらっている」 コスモス薬品横山社長が示唆した食品戦略の”大転換”

コスモス薬品(福岡県)が2023年5月期の中間決算を発表し、売上高は前年同期から約9%増の増収、利益面も堅調を示した。その一方で同社の横山英昭社長は、同様に食品強化に動くライバル企業の動きに言及しつつ、さらなる価格の追求、そしてこれまでとはやや異なる「生鮮食品」に対する指針を明らかにした。自社競合も厭わず、徹底的に標準化されたフォーマットを大量出店することで事業を急拡大してきたコスモス薬品だが、新たな成長戦略を描こうとしているかもしれない。

中間決算は増収増益で着地 「プライスリーダーの地位は誰にも渡さない」

コスモス薬品の23年5月期の中間決算は増収増益で着地

 コスモス薬品の23年5月期中間決算は、売上高が対前年同期比8.9%増の4040億円、営業利益は同2.7%増の153億円、経常利益は同2.5%増の169億円、親会社株主に帰属する四半期純利益は同0.5%増の112億円で増収増益となった。 売上高は32期連続の増収を達成している。

 増収要因としては、期中に51店舗を新規出店したほか、既存店売上高も好調に推移したことが大きい。また、季節用品の動きがよかったこと、コロナ禍が長引く中でフード&ドラッグ業態ならではのショートタイム・ワンストップショッピングの利便性が支持されたこともポジティブに作用したとコスモス薬品はみている。

 一方、電気代の高騰により販管費は増加。オンライン上で開かれた記者向け説明会で横山社長は、「冷凍・冷蔵什器を多く導入している当社にとって(電力費高騰は)重荷だが、昨今の世界情勢などからして如何ともしがたい問題。これを受け入れたうえでさらなる成長をめざしていく」とした。

 そのうえで値上げ基調の中でも、「プライスリーダーの地位は誰にも渡さない」と力を込めた。

「価格競争で切磋琢磨したい」ライバル企業の動きをけん制

 業績について触れた後、横山社長がにわかに語気を強めたのが、出店戦略と競争環境についてだ。

 「最近、同業の大手ドラッグストアが九州での出店を拡大する旨を発表した。今日ご参加の皆さん(メディア関係者)の紙面にも、『迎え撃つコスモスはどうなるのか』とおもしろおかしく取り上げていただいている」と冗談めかしたうえで、こう息巻いた。

 「わが社の(既存の)店舗は建築コストが上がる前の安価なコストでつくった競争力のある大型店。価格競争で切磋琢磨したい」

 企業名こそ出さなかったが、昨年9月にイオン九州(福岡県)とウエルシアホールディングス(東京都)が設立した合弁企業・イオンウエルシア九州(福岡県)を”けん制”したことは明らかだ。同社は九州内で今後、フード&ドラッグ業態を展開していくことを発表しており、コスモス薬品としては本拠地九州で新たなタイプのライバルが現れたことになる。

イオン九州とウエルシアホールディングスは今年9月、フード&ドラッグ業態を展開する合弁会社「イオンウエルシア九州」を設立した

 イオンウエルシア九州の店舗は、イオン九州が持つ生鮮の仕入れルートや販売ノウハウを活用し、生鮮をフルラインで揃えるフォーマットになる見込みで、今春にも1号店の開業が予定されている。そのプロトタイプ的位置づけとして昨年4月に熊本県熊本市にウエルシアが出店した「ウエルシア薬局熊本麻生田店」は、イオン九州が供給する生鮮・総菜を展開することで集客につなげており、ウエルシアの経営幹部の間でも「フード&ドラッグの理想形」と高く評価されているという。

 もっとも、九州内で圧倒的な店舗網を誇るコスモス薬品に対して、イオンウエルシア九州の”地盤”はいまのところゼロに等しい。それでも横山社長がわざわざ言及するということは、「危機感」とまではいかなくとも、「注視すべき動き・対象」とみていることがうかがえる。

生鮮の集客力と破壊力は無視できず 食品販売戦略を大きく転換か?

 そして横山社長は説明会の中でもう1つ、気になる発言をしている。これまで、他のフード&ドラッグ企業に比べて手を入れてこなかった生鮮食品に対してだ。

 「生鮮の集客力の破壊力はやはりすごい。今のところノウハウはないが、ねらってはいる。よいパートナーが現れれば、(協業しながら)ノウハウを蓄積していきたい」(横山社長)

 これまでコスモス薬品は基本的に、「生鮮はやらない」というスタンスをとってきた。前述のとおり同社は徹底的に標準化された店舗フォーマットの高速出店を成長の源泉としており、生鮮という新規カテゴリーに手を出すことは、そのフォーマットを一からつくりなおすことを意味する。コスモス薬品が貫いてきた経営戦略上、生鮮の導入は非現実的というわけである。

 ただ今回、生鮮導入について「ねらっている」と明言したことで、今後コスモス薬品の食品販売戦略に変化が生じる可能性が出てきた。実は九州などの一部店舗ではすでに青果、精肉を扱う動きを見せており、その取り組み規模が将来的に拡大することが予想される。なお横山社長は生鮮導入に際してもM&A(合併・買収)は否定しており、コンセッショナリー(専門テナントの委託販売)での主に見据えているようだ。

コスモス薬品の横山英昭社長

 この生鮮をめぐる戦略の変化の背景としては、前述のイオンウエルシア九州の存在だけでなく、すでに各地で競合しているクスリのアオキホールディングス(石川県)やGenky DrugStores(福井県)など、「生鮮強化型ドラッグストア」の台頭があるはずだ。彼らの「集客力」「破壊力」を間近にし、生鮮に対するスタンスを再考せざるを得ないという状況なのだろう。

 もしコスモス薬品が生鮮に本腰を入れるとなれば、そのインパクトは計り知れない。九州から関東まで小商圏型の密な店舗網を有する同社の店で、生鮮を含めたワンストップショッピングの利便性が提供されるとなれば、同業のドラッグストアはもちろん、食品スーパーやディスカウントストア、コンビニエンスストアなどあらゆる業態が強大な影響を受けること必至だ。

 もっとも、コスモス薬品がどのような道筋・時間軸で生鮮を強化していくのかは具体的には言及されていない。しかし少なくとも、「生鮮をねらっている」という横山社長の発言は、全国の食品小売関係者にとってあまりに示唆に富んだ一言であることだけは確かだろう。