2回にわたってお届けしている株式会社トーチリレー神保拓也代表取締役へのインタビュー。前編では、ファーストリテイリング時代、業績が低迷していたロードサイド「ユニクロ」店舗を日本一に立て直すために「悩みを欲しがった」事例を紐解き、業績向上のヒントを探った。後編となる本記事では、その具体的な成果や店舗運営を成功させるための組織づくりについてまとめた。(インタビュー実施日:2022年3月7日)
互いの悩みを一緒に解決できれば
組織は強くなり、大化けする
――ファーストリテイリング時代、業績低迷にあえいでいた店舗を起死回生させるため、現場の悩みを集めました。具体的にどのような成果がありましたか。
神保 業績低迷に苦しんでいたユニクロのロードサイド店は、店長、スーパーバイザー、スタッフそれぞれが悩みを共有したことで飛躍的な成長を見せました。1年後に単月で総合評価日本一になり、さらにその半年後には半年間の総合成績を競う場で2位に輝いたのです。
私のもとには「店長を半年間の総合成績でも日本一にさせてあげたかった」と悔し泣きするスタッフから多くのメールが届きました。どん底の状況から互いの悩みを解決し一緒に走り抜けた結果、スタッフは「店長を助けたい」「店長をヒーローにしたい」と願うようになったのです。この経験から、悩みが集まる組織に変われば、間違いなく組織自体が活性化して強くなると実感しました。
――組織が強くなってくると、スタッフの意識や働く姿勢にはどんな変化があるのでしょう。
神保 店長が悩みを聞いてくれ、本気で伴走してくれるなら、その悩みを解決するために自分の足で歩き出そうと、意識が変わります。初めは周りへの依存心が強くても、気付いたらスタッフが自分の頭で考え、変革を楽しむようになってきます。そして、こういうプロセスを経て育ったスタッフは、間違いなく店舗や店長の最大の味方になってくれるのです。
私がファーストリテイリングで物流の大変革を実現できたのも同様です。業務未経験で就任しましたが、倉庫の自動化を中心とした構造改革をわずか2年で成し得たのは、上司である私が悩みを欲しがり、物流やサプライチェーンの専門家である部下たちが自律自走してくれるようになったからこそです。
部下たちが自律自走できるようになると、よい意味で仕事を奪ってくれるので、上の人間はアップデートした新しい組織における悩みを、またひたすら集めればよくなります。そして組織はさらに強くなり、大化けしていくのです。
ファーストペンギンになる
勇気が店長には必要
――店舗運営や業績低迷に悩む店長へアドバイスをお願いします。
神保 店長というのは基本的には本部からおりてきた指示をいかに滞りなく店舗で実行するかを求められることが多いと思います。しかしこの文化のままでは、店長とスタッフの心の距離がどんどん離れていき、店舗の空気は悪くなり、スタッフが離職していくという負のスパイラルから抜け出せません。
これを逆転するには、本質的に現場の悩みを欲しがる店長が出てくるしかないのです。悩みを欲しがる最初のフェーズでは、本部の上司と揉めたり、「そんなことをやってる場合じゃないだろ」とスーパーバイザーに言われる場面もあるかもしれません。それでも悩みを欲しがってほしい。悩みを欲しがるカルチャーがインストールできれば、課題解決の根っこを掴むことができるのですから。
――上層部が変わらなければなかなか実行するのが難しいという構造的な問題も含みます。
神保 確かにまず上が変わるべきなのですが、変革なんて空から降ってくるわけでもなく、会社が準備してくれるわけでもなく、変革するぞという気概のある人が小さく始めることでしかスタートしないのです。誰かが最初のファーストペンギンにならない限り、セカンドペンギンは生まれません。
もし今の状況がおかしいと思うなら、ファーストペンギンになる勇気を持ってください。一人で不安なのであれば、ファーストペンギンになりそうな仲間を見つけ、一緒にやらないかとアプローチしてもいい。集団でファーストペンギンになるというやり方でも構いません。
相手に本気で関心を持てば
コミュニケーションは変わる
――ファーストペンギンになる勇気を持ち、現場の悩みを集めようとするとき、どんなアプローチが必要でしょうか。
神保 心底相手に興味関心を示し、話を聞くというスタンスを取ること。これが最初の一手です。シンプルに「この店長は自分のことにすごく興味関心持ってくれているんだな」と相手に思ってもらえるアプローチであればどんなやり方でもいいと思います。
たとえば15分だけ時間が取れてスタッフと話ができたとします。たいていは時間不十分で気になる点や違和感が残りますよね。それをそのまま放置せずに、LINEでもショートメッセージでもいいので声をかけてほしいのです。
「この話になったときに表情が曇っていたけれど、本当はもっと話したいことがあったんじゃないかな。何かあれば、明日、直接声をかけてもらってもいいし、このLINEに返信する形でも連絡をください」というように。
これは面談のフォローアップを機械的にすべきだというテクニックの話ではありません。本当は1時間くらい話したかったけれど時間には限りがある、でもどうにかしたいという思いから出てきた言葉で、だからこそ相手の心の琴線に触れるのです。
――表層的ではない、相手の心に火を灯すやり取りはまさにトーチングですね。
神保 こういうやり取りが日常的にカバーされると、チームワークはものすごくよくなります。日常のコミュニケーションが円滑になり、「今、お時間ありますか。これ相談したいのですが」と、どんどん悩みが集まってきます。頼られる頻度が増えて、「自分の時間が取れないことが最大の悩み」という状況になってくるはずです。そうなったら、ファーストペンギンとしての最初のステップを歩み出したと自信を持ってください。
悩みは情報の宝庫、宝です。悩みを欲して、最高のチームをつくる答えをぜひ探してみてください。
神保拓也
トーチリレー代表取締役
元ユニクロ史上最年少上席執行役員
じんぼ・たくや●
1981年、神奈川県生まれ。中央大学経済学部卒業後、三菱UFJ銀行、外資系コンサルティング会社を経て、ファーストリテイリングに入社。人事部でのグローバル人材の採用や、社内経営者育成機関の立ち上げ・運営の実績を評価され、35歳で史上最年少の執行役員に抜擢される。その後、物流の改革責任者に業務未経験ながら就任し、倉庫の自動化を中心とした構造改革をわずか2年で実現。その成果から全社改革の責任者も任され上席執行役員となる。これらの半生から、部下・同僚・チームの「悩み」に向き合うことが組織の成長にもつながると確信。株式会社トーチリレーを2020年に設立し、心に火を灯す「トーチング」面談や、企業の悩み相談などのサービスを提供し、「心の聖火リレー」を広げていくことを提唱している。https://www.torchrelay.net/
4月1日より、初の書籍を発売中!
「悩みは欲しがれ」
部下・同僚・チーム、あなたの心に火を灯す新常識
KADOKAWA 税抜1450円
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悩みは「不要なものか」と問われれば、私は「必要なものだ」とお答えします。それどころか、自分やチームの可能性を引き出してくれる「情報の宝庫」なのです。悩みの中には、過去の挫折やそれを乗り越えるためのヒント、チームが抱える問題の根本原因からその打ち手に至るまで、驚くほど多様で実践的な情報が詰まっています。本書では、この一筋縄ではいかない悩みとの「向き合い方」について、これまで千人以上の悩みに向き合ってきた私の経験を基に、さまざまな事例を上げて余すところなくお伝えしています。この本を通じて、一見ネガティブに思われる悩みを「遠ざける」よりむしろ「欲しがる」ようになってほしい。それが私の願いです。