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元ファストリ上席執行役員が明かす!店舗を日本一に導く手法 トーチリレー神保代表【前編】

業績低迷のユニクロ店舗をわずか1年で月間総合評価1位に躍進させた立役者である、元ファーストリテイリング上席執行役員の神保拓也氏。現在は「人に寄り添い、悩みに向き合う」をコンセプトとした株式会社トーチリレーの代表取締役を務める。これから2回にわたり、従業員のモチベーションアップや業績向上の秘策は「悩みに向き合うこと」だと明かしてくれたインタビュー内容をお届けする。前編はその原体験となる事例や人材活用の考えをまとめた。(インタビュー実施日:2022年3月7日)

悩み相談が企業を強くする
実体験から独立を決意

――35歳という史上最年少で就いたファーストリテイリングの執行役員を辞し、「人の心に火を灯す」を掲げる株式会社トーチリレーを設立した背景を聞かせてください。

神保 銀行、コンサルティングファーム、そしてファーストリテイリングと渡り歩いた私のキャリアを振り返ると、業種・業態ともにすべて異なることを手掛けてきました。そんななかで唯一、一貫してやっていたのは、一生懸命、人の悩み相談に乗るということ。それを、どの会社のどのポジションでもずっとやってきたのです。

 一人ひとりの悩み相談に乗るなかで、自分の営業成績が上がったり、管轄組織のチームの状態が良くなったり、ファーストリテイリングでは物流改革という大きなチャレンジも成し遂げました。その経験から悩みに向き合うことが企業や個人を強くし、自分自身の成長の原動力にもなると確信し、悩み相談をもっと幅広く民主化したいと考え、トーチリレーという会社を設立しました。

2020年にトーチリレーを設立。心に火を灯す「トーチング」面談や、企業の悩み相談などのサービスを提供し、「心の聖火リレー」を広げていくことを提唱している

――無料で悩み相談を行うサービス「トーチング」は現在、数カ月待ちになるほどの人気です。その収益モデルについて教えてください。

神保 教えることに主眼を置いたティーチングでも、引き出すことに主眼を置いたコーチングでもないトーチングは、登る山(目標や目的)を見つけ、心に火を灯すサービスです。あらゆる人が気軽に悩み相談をできるようになる「民主化」を実現するために考え出したのが、「行列のできる無料の悩み相談所」。全力で90分、どんな方の悩みにも私が無料で向き合うスタイルです。とはいえ、体は1つですので、このままではマネタイズや事業をスケールできないという問題が出てきます。

 そこでわれわれが展開しているのが、トーチングを文字に起こした有料の「トーチング日記」と、それを音声動画で解説した「トーチングラジオ」。相談者とどんなディープなやり取りをして相手の心に火を灯していったのか、そのメカニズムを学べるもので、開始以来、想像以上に多くの方に利用いただいています。1人に徹底的に向き合うトーチングを不特定多数の方に広げていけるため、ビジネスとしてマネタイズとスケールができるメリットも生まれました。

業績低迷の店舗を日本一へ
秘策は「悩み」にあり

――トーチングの原点に、ファーストリテイリング時代、業績が振るわなかった「ユニクロ」のロードサイド店舗を月間総合評価で日本一に導いた功績があります。現場の悩みを集めたことが躍進のきっかけになったのですね。

神保 そのお店は関東郊外にあるごく普通の店舗で、私が本社からサポートで訪問すると、店長とスーパーバイザーの関係がうまくいっていないことが見えてきました。スタッフにも悪影響を及ぼし、業績も低迷していたのです。

 そこで私は、店長、スーパーバイザー、スタッフから徹底的に「悩み」を集めてみることにしました。「今の仕事で一番苦しいことは?」「それに対してどんな努力をしている?」「それでも変えられない部分はどこ?」と、それぞれに本気で向き合ったのです。

 大事なのは「あなたを苦しめている悩みについて一緒に向き合いたい」と、私のアドバイスではなく、目の前にいる個人の悩みを主役にすることです。そうすると、もともと自分事である悩みの解決に向けて動き始め、徐々に店舗での仕事、さらには店舗の業績までを、自分事として考えることにつながります。また、悩みの本質があぶり出されて、店舗改革の糸口も見えるようになります。

トーチリレー神保拓也代表

――個人を主役に、店長、スーパーバイザー、スタッフと向き合ったのですね。

神保 悩みを集めてわかったのは、「店舗をよくしたい」という思いは皆一緒なのに、言動が相手に誤解されて、わだかまりが生じていたことです。そこで店長、スーパーバイザー、スタッフそれぞれにアドバイスするとともに、その内容を全体にも開示しました。相手の悩みを知り、それに対する私のアドバイスを知ることで、お互いの理解がより深まります。悩みながらも努力している過程を皆で共有することで、組織は想像以上のスピードで成長していきました。

 結果的に、どん底だった店舗は日本で一二を争う店舗に生まれ変わりました。私がしたのは悩みを欲しがり、皆の心に火を灯した。ただそれだけなのです。

悩みを欲しがれば、スタッフの
モチベーションはアップする

――スタッフのモチベーションを上げる秘訣も「悩みを欲しがる」中にヒントがありそうです。

神保 現在、私がご相談を受けるなかで多いのが、「仕事が自分事化されないスタッフばかり」「給与を上げても頑張ってくれない」というもの。しかし、スタッフのモチベーション低下を嘆く前にお願いしたいのは、今、スタッフが何に悩んでいるかを知ろうとすることです。なぜなら、店舗が本質的に抱えている課題をいちばん知っているのは、スタッフだからです。一緒に働く同志であるスタッフたちの悩みは、店舗を写す鏡と言えます。

 スタッフ個人の悩みを深掘りしていくと、実は現場全員が抱えている課題だということがあります。それなら「その悩みを解決するために何をしたらいいのか」をディスカッションし、そこで出たアイデアを店舗の経営課題に紐づけていけばいい。そしていざ変革という時点になると、その課題解決は個々人に寄り添った結果が反映されているので、スタッフにとっても自分事になっている。これが強みになります。

 店舗を預かる店長が、スタッフに寄り添い、本気で悩みに向き合う姿勢を提示できれば、「自分のお店のトップは自分たちに真摯に向き合ってくれる」というカルチャーができあがります。そうなると、悩みがどんどん集まってきて、店舗改革の材料も見えてきます。

――スタッフの悩みから経営課題を見つけるというのは、これまでの人材活用とは逆の発想ですね。

神保 これまでは、経営や運営側が抱える課題をスタッフの仕事に分解し、落とし込むことがほとんどでしたが、それはもう制度疲労を起こしています。さまざまな個性を持った人間が組織に集まる今、このやり方ではスタッフは仕事を自分事化できません。そうではなく、逆のアプローチをとる方が結果的に、スタッフと一枚岩になって経営変革が進むのです。

 強いビジネスや企業を生み出すのは、結局どこまでいっても人がすべてだと考えます。AIの登場で6次、7次産業も叫ばれていますが、1次以上の産業はすべて人が担っています。つまり、人は0次産業。あまりにも当たり前すぎてケアする対象にすらならなくなっている「人=0次産業」こそ、変えていく必要があります。まずはスタッフの悩みを本気で聞いてみてください。そこに業績向上のすべての答えが詰まっています。

 

神保拓也                  
トーチリレー代表取締役
元ユニクロ史上最年少上席執行役員

じんぼ・たくや●
1981年、神奈川県生まれ。中央大学経済学部卒業後、三菱UFJ銀行、外資系コンサルティング会社を経て、ファーストリテイリングに入社。人事部でのグローバル人材の採用や、社内経営者育成機関の立ち上げ・運営の実績を評価され、35歳で史上最年少の執行役員に抜擢される。その後、物流の改革責任者に業務未経験ながら就任し、倉庫の自動化を中心とした構造改革をわずか2年で実現。その成果から全社改革の責任者も任され上席執行役員となる。これらの半生から、部下・同僚・チームの「悩み」に向き合うことが組織の成長にもつながると確信。株式会社トーチリレーを2020年に設立し、心に火を灯す「トーチング」面談や、企業の悩み相談などのサービスを提供し、「心の聖火リレー」を広げていくことを提唱している。https://www.torchrelay.net/

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4月1日より、初の書籍を発売中!
「悩みは欲しがれ」 

部下・同僚・チーム、あなたの心に火を灯す新常識 
KADOKAWA 税抜1450円
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悩みは「不要なものか」と問われれば、私は「必要なものだ」とお答えします。それどころか、自分やチームの可能性を引き出してくれる「情報の宝庫」なのです。悩みの中には、過去の挫折やそれを乗り越えるためのヒント、チームが抱える問題の根本原因からその打ち手に至るまで、驚くほど多様で実践的な情報が詰まっています。本書では、この一筋縄ではいかない悩みとの「向き合い方」について、これまで千人以上の悩みに向き合ってきた私の経験を基に、さまざまな事例を上げて余すところなくお伝えしています。この本を通じて、一見ネガティブに思われる悩みを「遠ざける」よりむしろ「欲しがる」ようになってほしい。それが私の願いです。