堀口珈琲にみる、企業規模が拡大しても店がコモディティ化しない秘訣とは
生豆はダイレクトトレード(直接取引)ではなく、輸入専門商社を介して仕入れる。若林氏は、「ダイレクトトレードを考えたこともあるが、直接買い付けると自分で調べられる情報しか入手できない。それはリスクだと考え、それよりも商社と付き合うことで情報が増えることで新たな視点が生まれ、さらに品質の安定した豆を仕入れることにもつながる」という。
「中間搾取のないダイレクトトレードをよしとする風潮もありますが、私たちは共に仕事する人を見極め、向き合って仕事をして適切な対価をお渡しすることを大切にしています」
若林氏自身、コロナ以前は生豆の調達担当として、足しげく海外の生産者のもとに通い、品質に対するこだわりを伝えてきた。オンラインミーティングという形になった現在、豆の品質のことなどで激しいやり取りが交わされることもあるという。しかし、どんなに言い合っても最後は、対面で会っていた経験があるため、悪い状況にはならないという。「どこかでお互いを理解していて、対面で交渉を繰り返してきたことがこういう時に生きてくるのだなと痛感している」(若林氏)
若林氏は社内外ともに非常に周囲との関係性を大切にしている。コロナ禍で、世界的に物流が停滞しているが、冷蔵コンテナを手配できないとコーヒー豆の品質にも影響しかねない。こうした状況下では、生産者、商社など周辺との関係性がものをいう。
コロナ禍でも業績が伸び続けている理由とは
現在は、特にECの売上が好調だという。堀口珈琲は2000年代からコーヒー豆の通販を始め、早くからECに力を入れてきた。その地道な地盤固めが今となっては功を奏している。
また、2020年5月にはビジネスの中心地である、大手町にテイクアウト専門の『Otemachi One店』をオープンさせた。これまで小田急沿線の地域密着でやってきた店舗展開とは一線を画す立地だ。その理由を「これまで生活に密着したエリアで展開してきたが、さまざまなエリアから人が集まる場所に出店することで、より多くの人に堀口珈琲を知ってもらいたいという狙いからだった」(若林氏)
そして、手作業でドリップすることにこだわり続けてきた堀口珈琲が、Otemachi One店では手作業でのドリップと同品質でコーヒーを淹れられるマシンを導入した。お客にコーヒーを提供するのに時間がかかるというこれまでの課題解決になると考えたからだ。
しかし、コロナ禍によるリモートワークの普及によって、想定とは異なるスタートとなった。現在は、現場の肌感覚や意見を大事に物販に力を入れたり、アレンジコーヒーを提供したりするなど、臨機応変に対応しているという。今後も実験的な取り組みをしていく場として活用していく方針だ。「2022年には大きく変わる可能性もあります。乞うご期待です」(若林氏)