「新入社員に期待する」 2014年4月1日、岡田元也イオングループCEOが入社式で語ったこと(下)
(昨日の続きです)
ここで少しイオングループについての話をしたい。
イオングループは、実に多様なビジネスを展開している。実際、本日、みなさんが入社した企業の業種、業態、業容は、それぞれだろう。
しかし、「同じお客様」に対して小売やサービスを提供すること。また、イオングループの一員として厳守すべきことについてはしっかりと厳守して欲しい。
もうひとつ。いかなる企業や事業に入社、配属されたとしても、イオンは、小売業を基盤とする集団であることを忘れず、小売業の立場を保持してもらいたい。
小売業の立場を保持するという良い事例として、イオンモール(千葉県/岡崎双一社長)のエピソードを紹介したい。
イオンモールは、ショッピングセンター(SC)を開発運営するSCデベロッパー企業だ。
2002年の東京証券取引所第一部上場に際して、日本の証券会社の方に来ていただき、1株の売出価額を尋ねると「大体700円です」という回答があった。証券会社の論拠を聞くと、「イオンモールはSCデベロッパー事業であり、銘柄は《不動産》のカテゴリー。《不動産》の同規模企業の株価は約700円だから」というものだった。
それに対してイオンは、「私たちは《不動産》ではない。小売業発のSCデベロッパー事業であり、およそ《不動産》とは関係がない」と主張した。しかし、なかなか理解してもらえなかった。
結局、株式上場の主幹事は米国の証券会社に依頼することにした。すると1200円の値がついた。
米国の証券会社は、イオンモールはSCデベロッパー事業であり、《不動産》ではないことを初めから理解してくれていたのだ。
そして、この一件は、今日でもイオンモールの礎になっている。
すなわち、《SCを繁栄させることで利益を上げる》。
世の中には、不動産なのかSCデベロッパーなのかわからないような企業が散見できるが、私たちは違うのである。
また、イオンフィナンシャルサービス(千葉県/原口恒和社長)という会社がある。
クレジットカード事業や銀行業、フィービジネスなどを展開しているが、私たちは、単なる《クレジット》や《銀行》ではないと考えている。
イオンフィナンシャルサービスの前身である日本クレジットサービス(1994年、イオンクレジットサービス〈千葉県/水野雅夫社長〉に社名変更)は、1981年の創業で、ジャスコカードを発行していた。
その成長過程で、バブル期を経ているのだが、ほぼ何のマイナス影響も受けずに、無傷でくぐり抜けた。多くのクレジット会社は、バブル期に本業とは異なる投資や事業に明け暮れ、沈んでいったのと対照的である。
ではイオンクレジットは、なぜ、脇目を振ることがなかったのか?
それは、「イオンを訪れるお客様に対して買い物の便利さを提供する」という企業の目的を共有し実践していたからだ。
その後、2007年にイオン銀行(東京都/森山高光社長)を設立した。
これも単なる銀行ではない。イオンで買い物してもらっている普通の人たちに銀行のサービスを提供している。
日本の多くの銀行は担保がなければお金を貸してくれない。企業にはお金を貸すが、個人にはなかなか貸してくれない。
しかし個人のお客様は、生活のライフステージの中で、子供の入学金が必要になるとか、家を建てるとか、まとまったお金が必要になることが少なくない。その際に便利なサービスを提供するのがイオン銀行の考え方であり、このスタンスを変えるつもりはない。
そう。イオン銀行にしても小売業の発想からスタートしていることを胸に刻んで欲しい。
フィナンシャルサービスへのニーズは、将来的に中国などのアジアでもどんどん高まるだろう。
中産階級の方々が健全な消費を繰り返すことにともない、国家経済は発展していくものだ。
その実現に向けて、クレジットカードや銀行は、健全に機能しなければいけない。
小売業が発展しているだけの段階では、お客様は所持する現金分しか商品を購入できないから、個人消費の伸びには限界がある。
しかし、分割支払などのサービスを提供すれば、“高嶺の花”も手に入れることが可能になる。大衆消費社会を健全に育成していくには、そういうサービスが必要なのだ。
そのノウハウをイオンはすでに持っている。現状は各国金融の規則の違いや外資への制約などの障害がなくはないけれども、今後ひとつひとつ克服しながら、世界的レベルでイオンフィナンシャルサービスを拡大していきたい。
さらにグループ内には、イオンディライト(大阪府/中山一平社長)という総合FMS(ファシリティマネジメントサービス)の会社がある。
同社の主戦場である「ビルの清掃やメンテナンス」は、非常に遅れている業界だった。全ての業務を人力でこなさなければいけない業界であり、その結果、企業化やマネジメントのレベルも遅れたままだった。
それを私たちは近代化したいと考えた。なぜならメンテナンス業務とは、小売業やサービス業がさらに高いレベルを目指すに当たって、絶対に必要なものだからだ。
メンテナンス事業の実務は、今も人力に頼らざるをえないが、マネジメント力アップとテクノロジーを導入することで、この業界全体を見違えるように変えられる、と考えている。
現在、イオンディライトは、清掃・メンテナンス業をベースに多くのプロパティマネジメント事業を行う、日本では珍しいビジネスになっている。
イオンファンタジー(千葉県/片岡尚社長)も同じだ。
お客様が子供を安心して遊ばせる場所を買い物する場所に隣接させれば便利だろう、というところからスタートしている。
2005年には、東京証券取引所第一部への上場を果たし、現在は日本国外にも事業を拡大している。
成長プロセスの中では、「ゲームなら(大人用でも)なんでもいい」と考えることがあったが、イオンファンタジーは、「子供連れで買い物するお客様」というコンセプトを外れなかった。それをいまだに守っていることが成功の要因だろう。
そして、比較的新しい企業として、まいばすけっと(神奈川県/大池学社長)も挙げておきたい。
この事業の発端は、「どうして都心にはコンビニエンスストアしかないのか?」「どうして都心の食品スーパーの値段は高いのか?」という素朴な疑問である。
そこで、2005年。売場面積30~50坪、2000アイテム、EDLP(エブリデー・ロー・プライス)の都市型小型スーパーの「まいばすけっと」1号店を出店したところ、お客様から大きく支持を受け、あっという間に450店舗を超える展開店舗数なった。
これは、イオンの4大シフトの中の「大都市シフト」の考えにも合致している。
このように今日からみなさんが働き始める会社は、多種多様にわたっている。
しかし、どれも小売業として、またイオングループの一員としての価値観をしっかり守り、お客様により良いものを提供するというスタンスを崩していない。
お客様が求めるモノやコトは時代によって変わるが、このスタンスを崩さずに、新しいニーズに応えていけるように、若いみなさんには、頑張ってもらいたい。
最後にイオンの社会貢献活動について話したい。
イオンは、ビジネスを通じてのみ、お客様にお返しするだけでは十分ではない、と考え社会貢献活動を熱心に行っている。
「地域」を重視し、地域の発展を願い、地域とともに私たちも発展していきたい、ということで地域貢献に力を入れている。
また「人間」の持つ力を心から信じ、人間がさらに人間らしく、さらに良い生活、安全な生活を送っていけるようにも貢献している。
それらの徹底によって、社会を安定させ、「平和」な社会を築いていく。小売業が発展していけば、「平和」な社会が訪れると確信している。
イオングループでは、みなさんも仕事を通じ、あるいは個人として、社会貢献活動に参画する機会がたくさんある。この意図と意味を理解し、是非とも積極的に参加してもらいたい。
具体的な例としては、ひとつに植樹活動だ。イオンは、これまで1006万本の木を11カ国、900カ所に植えてきた。
最初は1965年に愛知県岡崎市に桜の木を植えたところから始まった。海外では1991年にマレーシアのマラッカからスタート。中国では、1998年に北京でスタート。万里の長城周辺には100万本を植えている。
次に、ティーンエイジ・アンバサダー(=小さな大使)活動を紹介したい。これは高校生を相互に交換するプログラムだ。1990年にマレーシアで開始、これまで16カ国の世界の高校生を日本に招待し、総数は1300人あまりに達した。
この狙いは、感受性が高く若い高校生がお互いの国を訪問し、ホームステイをして、相互に理解し交流を深める。この繰り返しが世界平和のためには、とても重要だと信じている。
それからスカラシップ(奨学金制度)も行っている。1958年にスタート。若くて優秀だけれども、経済的には恵まれない人たちに大いに勉強してもらい、その能力を世界で発揮してもらいたい、ということでこれまでに延べ6カ国。3000人以上の人に奨学金を送っている。
世界が平和で豊かになるのは教育がなにより、ということで、学校が十分に整備されていない国々に対しては、これまで5カ国に370校あまりを寄付してきた。
このように、イオンは現在、非常に広い地域で多様な事業や活動を展開している。
今回みなさんが入社した企業は、たまたまであり、籍を置く、業界、業種、国、地域は絶えず変わっていくものと理解していてもらいたい。
みなさんが自らの力を試すために新しいチャレンジをしたければ、いつでも門戸は開かれている。
今後、みなさんには、イオンをお客様から最大限支持され喜んでもらえるナンバーワン企業にしてもらいたい。
その実現に向けて、みなさんの若い力を発揮してもらえることを祈念したい。
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