食品スーパーマーケット混沌(中)

2013/11/13 00:00
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 昨日の続きです。

 

 SM業界が混沌としている原因は、マーケティング的なアプローチで見ていくとわかりやすい。

 ここでは、マーケティングの原理原則ともいうべき4Pに当てはめて日本のSMを検証してみたい。

 マーケティングの4Pとは、①PLACE(立地)、②PRICE(価格)、③PRODUCT(店舗および商品:品揃え、品質)、④PROMOTION(販売促進)の4つである。

 

 まず、①PLACE(立地)は、「小売業は立地産業」と言われてきたように最重要要素であった。実際に、さまざまな消費者調査では、店舗の選択理由は「近いことが一番」という結果が出ている。価格が同じか若干高いくらいであれば、消費者は一番近い店舗を使う。

 立地とは、1回出店してしまえば、最低でも十数年間は変えることができない要素であるから、SM企業各社は店舗開発に際しては、十分に検討を重ねたはずだ。しかし、一度、豊穣な土地に出店してしまえば、後は極端な失敗がない限り、一定の利益を見込み続けることができたし、実際に計上してきた。また、SM業界において、標準店舗規模とは、ある範囲内でほぼ決まっており、都心部など恵まれた環境にある場所には、後発企業が標準規模を具現化できる土地を確保することが難しかった。

 ところが、その立地自体を根本から見直す企業が出てきた。

 代表は、イオン(千葉県/岡田元也社長)グループのまいばすけっと(千葉県/大池学社長)である。中期経営計画で掲げる4つのシフト(大都市、シニア、アジア、デジタル)のひとつである大都市シフトを体現化する業態であり、店舗面積は30~50坪。すでに350店舗超を東京都や神奈川県など人口の厚いエリアに展開するに至っている。プロセスセンターを活用することで、従来ではSMが出店できなかった土地を店舗用に創造したのである。

 かつてイオンは「タヌキやキツネの出るところに出店せよ」が出店戦略の根幹にあったが、「大黒柱に車をつけよ」という岡田屋の家訓をそのままに、消費者のいる首都圏の中央に出店するあたりは同社の面目躍如である。

 また、同じような立地で一時代を築いてきたコンビニエンスストアも商品の価格を下げ、生鮮食品を取り扱う事で、まいばすけっととよく似た都市型小型店と化している。

 好立地に漫然と位置し、イノベーションを怠ってきたSM企業は、こうした立地革命ともいうべき新興勢力やCVSの商品革命の前に大きな影響を受けるようになっている。

 

 2つめの②PRICE(価格)は、重装備にならざるをえないSMにとっては、もともと不利である。冷凍冷蔵機器やインストア加工用のバックルーム設置などSMの初期投資額は大きく、人件費もかさむからオペレーションコストも低くはない。他業態との比較で言えば、それだけで高コストになってしまう。

 しかも、低価格の打ち出し方の主流はナショナルブランドの廉価販売であるため、価格面で個性を打ち出すことは至難の業だった。ガンバリズムを駆使して、競合店舗よりも1円~2円、下回る価格を打ち出すことが消費者を惹きつけた時代もあった。しかし現在、1円~2円の差では消費者は店舗を買い回らなくなったし、値下げ原資を持つ企業も持たない企業も似たような低価格を打ち出すため差別化しづらくなっている。

 また、米国ウォルマート傘下の西友(東京都/スティーブ・デイカスCEO〈最高経営責任者〉)は、EDLP(エブリデー・ロープライス)戦略を日本市場に浸透させつつあり、消費者がナショナルブランドの特売価格だけに踊らされることもなくなっている。

 そこに、多少、高価格でも価値をしっかり訴求するようなセブン&アイ・ホールディングス(東京都/村田紀敏社長)の《7ゴールド》のようなプライベートブランド商品が出てきており、PRICE=低価格を必ずしも意味しない時代になっている。

 

 3つ目はPRODCT(店舗及び商品)である。

 SM業界は、似たような店が過剰に存在するというオーバーセイムストア(同質飽和)の状態に陥っている。

 だが、そもそも、オーバーストア自体は成長阻害の原因にはならないはずだ。業種が異なれば、相乗効果こそ喚起するかもしれないが、足を引っ張り合うことはまずないからだ。相互にカニバリを起こすセイムストアが過剰に存在することがSM業界が混沌としている原因のひとつだ。

 では、SMの同質(セイムストア)化はなぜこれほど進んでしまったのだろうか?

 ひとつには、問屋依存型の商品政策である。同業他社が、同じ問屋に丸投げする。その結果、売場が画一的なものになってしまった。

 ふたつめは、競合企業のキャッチアップである。すなわち、SM業界内はモノマネが横行。多少でもよい業績を残している企業の噂を耳にすれば、飛んで行き、即座に自社の店舗に導入する。

 3つめはローコスト経営だ。人員がどんどん削られ、売場は個性を押し出しにくい体質になっているとともに、本部も店舗も、ルーチンワーク以外のことを考えなくなる。思考能力が欠如するから、そのときそのときの流行トレンドを追い求めるようになり、そのことがまたセイムストア化を進める。

 SM業界は、もとを辿れば、モノマネを良しとしてきた業界だった。SM企業のほとんどは、同業者やアメリカを学びながら店舗を開発し、順風満帆と成長してきたからだ。

 モノマネが成功体験だから、忘れられないのは道理だ。でも、その結果がいまのオーバーセイムストア状態を招いてしまったのである。

 

 4つ目はPROMOTION(販売促進)だ。

 SMの販売促進と言った時に、まず思いつくのはチラシだ。チラシを打てば間違いなく集客はされるし、売上も上がる。ただし残念なのは、それが利益につながっているかどうかがわからないことだ。

 商品部がタフな商談をこなして、特売商品を決め、チラシを作成、印刷、配布。特売日に備えて売場を変更して、消費者の来店を待つ――。確実に客数は上がり、売上も立つ。しかし、メーカーから協賛金をもらったとしても、人件費や印刷費、配布費で相殺されてしまい、利益が増加しているかはわからない。

 しかも、折込チラシは常習化する。打たないとお客と売上が減ってしまうことを恐れて、週1回が2回にそして3回にと増えていってしまう。

 さらには、折込チラシとは切っても切れない存在である新聞を読まない層も増加している。折込チラシの効用は、早晩薄れてくるものと予想できる。

 長く、折込チラシは、SM企業にとって最重要な販売促進策だっただけに代替手段を探すことはなかなかに難しいはずだ。

 

 明日に続く。

 

『チェーンストアエイジ』誌2013年11月15日号(11月15日発売)の特集は「ここから先は未知の領域 スーパーマーケット混沌」です。是非、ご一読ください。
 

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