ハクブンチョウを知っていますか?
小売業が新しいエリアに進出することの難しさをいちやまマート(山梨県)の三科雅嗣社長は振り返る。
2011年4月、長野県諏訪市にいちやまマート諏訪店(以下、諏訪店)を開業。地盤・山梨県以外のエリアに初めて進出した。
間もなく、長野県の地場メーカーに「ハクブンチョウをご存知ですか? 諏訪店では扱っていないようだが、考えがあってのことですか?」と聞かれた。
三科社長は、思わず「ハクブンチョウってなんですか?」と聞き返してしまったという。
ハクブンチョウは、《白文帳》と書く。長野県松本市の教師が考案した漢字練習用のノートで、長野県だけに流布する中学生の必需品である。
そこで、遅ればせながら、品揃えをしてみると、売れ行きはものすごかった。
スイカなら、「松本ハイランドすいか」だ。いちやまマートは、諏訪店開業の1年目の夏に、山形県産の「尾花沢スイカ」を、デモンストレーション販売、試食販売など駆使して売り込んだ。しかしながら、空振りに終わってしまった。
「『松本ハイランドすいか』の味じゃないとダメということが分かりました」(三科社長)。
山梨県内のいちやまマートは、地場産のワインの品揃えを充実させていることが大きな特徴のひとつだが、諏訪店では山梨県産ワインはほとんど売れなかった。そもそも長野県では、ワインの需要自体がそれほど大きくなく、売れ筋は輸入品が主体だったのだという。
まだある。売れると思って充実させた野沢菜漬けも蕎麦も芳しくない。
聞けば、野沢菜は塩漬けではなく、しょうゆ漬けを、蕎麦は、乾めんか茹でめんを良く食することが分かった。
諏訪店のある諏訪市の人口は約5万人。綿半スーパーセンター諏訪店、西源諏訪店、バロー諏訪店、西友(諏訪城南店、諏訪湖南店、下諏訪店)、オギノ諏訪店、マツヤ茅野店などが群雄割拠する大激戦区――。
ややもすると出血大サービス的低価格競争のみに陥ってしまいがちだ。
だが店舗の勝敗を決める要素は、それだけではない。「確かに価格競争もしなければいけないが、まずはエリアの生活を理解し、密着していくことが大事だ」と三科社長は力を込めて話してくれた。
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