“遊び心”のあるMBWA(2)
MBWA(Management by walking around:巡回による管理)は、トップによってずいぶん手法が異なる。ダイエー社長の西見徹さんは、毎週末を店舗巡回に当て、精力的に店回りをこなしてきた。約2年半での通算巡回自社店舗数は700に及ぶ。
ある日、西見さんは「何かヘンだぞ」と現場のホスピタリティに疑念を抱くようになった。昼食を取ろうと、店舗内の社員食堂に立ち寄ると、必ず大好物の「ひじき」が出迎えてくれるようになったからだ。
思い当たるふしはあった。以前、ある店舗の社員食堂で「ひじき」が出されたときに、「僕はひじきが大好きなんだ」と漏らしたことがあったのだ。よくよく考えると、それを契機にして、どの店舗でも「ひじき」が出されるようになった気がする――。
ここで、話は創業者の中内功さんがトップに君臨していた時代に遡る。
当時のダイエーは、良い意味でも悪い意味でもトップダウンの企業。中内さんが店を回れば、そこでの指摘や発言は、一挙に全国の店舗を駆け抜けた。全社として取り組むべき課題もその店舗限定の課題も渾然一体となって、売場は中内さんの言葉を起点として、右に倣えで変わった。カリスマに対する“畏怖”が店長ネットワークをつくりあげていたためだ。
西見さんはひらめく。「中内さんが亡きいまも、ダイエーには、強固な店長情報網が残っているようだ」。
ならば、とばかりに西見さんは、この情報網をうまく活用することに知恵を絞っている。
たとえば、現在、ダイエーが全社的に推進する「関連販売」の方法を巡回の際に指摘すれば、情報網に乗るはずだ。中内さんとの違いは、全社的にやるべき課題のみを指摘することだ。
西見さんの思惑はまんまと当たり、1店舗での指摘は、多くの店舗での水平展開につながっているという。
やはり、現場(=売場)に行かなければ分からないことはヤマほどあるということだ。
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