雄弁なのは、弁論部出身だからなのでしょうか?
弁論部の出身者は、演説の達人という印象が強い。
そのイメージをさらに強固なものにしているのは、早稲田大学雄弁会の存在である。
石橋湛山(第55代内閣総理大臣)、竹下登(第74代内閣総理大臣)、海部俊樹(第76・77代内閣総理大臣)、小渕恵三(第84代内閣総理大臣)、森喜朗(第85・86代内閣総理大臣)と実に5人の総理大臣を出していることでも知られ、いまなお実社会にも多くの論客を輩出している。
中でも突出していたとされるのは、海部俊樹元首相である。学生弁論大会で優勝した時には、審査委員の時子山常三郎早稲田大学総長(当時)から「海部の前に海部なし、海部のあとに海部なし」と評されている。
弁論部出身の経営者も少なくない。
オークワ(和歌山県/福西拓也社長)の前社長で現副会長の大桑啓嗣さんもその1人だ。日本大学雄弁会の出身である大桑さんの喋りは珠玉であると評価が高い。
ただ、弁論部の出身であることを周囲の人たちが知っているだけに、「大桑さんが饒舌なのは弁論部出身だから」と決めつけているようなところがあった。
ある日、大桑さんのようにうまく喋べられるようになりたいと考えた部下が、大桑さんを訪ねた。
「どうしたら、社長(当時)のように淀みなく、人を惹き付けるように話すようになれるのでしょうか?」
大桑さんは、何も言わずに5巻からなる話術のハウツーテープを差し出した。
拝借しながら、彼は思った。
「社長が雄弁なのは、弁論部の出身だからではなく、日々、研鑽に努めているからだ」と――。
鈴木敏文セブン&アイ・ホールディングス会長(東京都)も講演や演説のうまさに定評がある。
驚くのは、鈴木さんが極度のあがり症だったことだ。その克服のために小県蚕業学校(現:上田東高校)では「人前で話す練習をするため」(『挑戦 我がロマン』:日本経済新聞社)弁論部に入部している。
天賦の才能というのは確かにある。だが努力に勝る才能なしということを改めて思い知らされるエピソードだ。
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