始皇帝と企業経営
「死にたくない」。
年間の自殺者が3万人を超す昨今ではあるが、それでも大半の人間は、こう考えているはずだ。太古の昔からそうだった。
秦の始皇帝は、月面から唯一肉眼で確認できるという人工物「万里の長城」を築き上げたことで知られる。こうした土木事業のほかにも、文字や度量衡を統一し、辺境への外征事業と神をも恐れぬ権柄を行使し、人民を震撼させ、欲しいものはすべて掌中に収めてきた。
ところが、それほどまでの巨人をして、唯一手にできなかったものがある。“永遠の命”である。
晩年の始皇帝の生に対する執着は見苦しいほどだったとされる。「不老不死」を実現するために、方術に傾倒し、方士を急かし、百薬を調合させ、時に水銀を体中に塗りたくった。
しかし歴史は常に冷酷非情なもの。その願望はついに叶うことなく、始皇帝は死んだ。
“生”に対する執着がそこまであるというのは、死を迎えた時に失うものが大きいことの裏返しである。
人間に与えられた平等の宿命。それは死にある。ここからは、何人といえども抜け出すことはできない。
その中で、必要になってくるのは、生前に自分の死を代替する人物なり、システムなりをあらかじめ用意しておくことだろう。
周知のように、始皇帝が死んだあとには、部下の背信行為が引き金になって乱世が訪れた。国家の求心力はなくなり、混迷の時代の終結は、劉邦の前漢を待たねばならない。
企業経営についても全く同じことが言える。
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