私と“釣り”
いやー、釣れてしまった。大漁、大漁。重たくなったクーラーボックスを担いで凱旋すると、細君が機嫌よく迎えてくれた。
いなだ3尾、ソウダガツオ1尾、メジマグロ1尾――。「今宵は、釣れたての肴をつまみに、また一杯」と鼻歌交じりでシャワーを浴びていると、キッチンから悲鳴に近い叫び声が上がった。
「どうしたの?」と問う私に、「キッ!」と敵対心をむき出しにする細君。「何で5尾も持ってくるの? とてもさばききれないし、食べきれないじゃない」とさっきまでのご機嫌は一転、攻め立てられた。
それでも、観念したのか、その後は、何事もなかったかのように静かに魚に包丁を入れ始めた。
隣人に2尾を差し上げ、3枚におろした魚のほとんども引き取り先が決まり、我が家での消費量は正味1尾分くらい。ありがたく、食卓に並んだのは、カマの塩焼き、つみれ汁、刺身など新鮮な料理の数々――。
さぞかし、お酒が進むと思いきや、これがなかなか生臭い。
正直、食べるのがこれほど苦痛に感じた海鮮物は初めて。でも、一生懸命つくってくれた努力を考えると残すわけにもいかず、涙目になりながら全部食べきった。
だが、そのことを敏感に察知した細君の機嫌はさらに急降下。なんとも重苦しい時間を過ごすはめになった。
翌日、一緒に行った同僚に「どうでした?」と話を聞くと、「カミさんがさばくのに時間がかかってね、しまいには怒っちゃった。魚も生臭くって、ガマンして食べたけど、『もう2度と釣りには行かないで』だって…」とどこかで見た光景を再現してくれた。
そんな話を別の場ですると、「そうそう。釣りは配偶者を怒らせるものなんだよね。僕も若いころ、同じような経験をしたよ」と2つ家庭に同時発生的に起こった小嵐は決して偶然ではないという事実を教えてくれた。
初心者のみなさん、思いのほか魚が釣れた暁には、家内平和を鑑み、自宅に持ち帰る以外の選択肢も検討しましょう!
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