コメリの捧賢一さん
昨日のブログでは信念について書いた。
その信念ということを貫いた人物としてすぐに思い浮かぶのが、新潟県にあるホームセンター(HC)企業コメリ(捧雄一郎社長)の創業者、捧賢一さんだ。
創業は1952年、米穀商としてスタートした。以後、燃料の販売などをしていたが、事業の将来性に疑問を持ち、1977年にHC業界に参入。1号店コメリホームセンター三条店を開業した。
1983年に、田舎の小商圏に小型店舗で、金物と園芸に品揃えを絞った「ハード&グリーン」(H&G)を開発。以降、着々と出店し続けた。
一般的にHCの小型店舗は、競争力に弱く、経営戦略上は正しくないと言われてきた。実際、HCの平均店舗規模は約3500平米。これに対して開発当時のH&Gの標準売場面積は500平米(現在は1000平米)。1店舗巨艦主義で業界を圧倒するジョイフル本田(茨城県/小平武社長)の店舗は4万平米だから、その小ささは群を抜いている。
捧さんは、小型店舗劣位の“常識”を、実践をもって否定してきた。
「店舗規模の大小で店の力を評価するのはおかしい。H&Gは小型のHCスペシャリティストアだ。チェーン・オペレーションが要であり、店舗を数多く展開することが商品開発力につながり、マス・マーチャンダイジング力につながる。そのシステムをバックアップするのが物流・IT(情報テクノロジー)力だ。我々は長年にわたって、その部分に投資をしてきた。このシステム構築は、これからだれも真似することができない。つまり、独自のオンリーワン業態である」。
実際に、物流センターは、現在、白根(新潟県)、郡山(福島県)、福井(福井県)、高崎(群馬県)、三重(三重県)、岡山(岡山県)、花巻(岩手県)、九州(福岡県)と8ヵ所に配置し、H&Gおよびコメリのホームセンターへ商品を供給するとともに集中大量出店の拠点として機能させている。
だが、捧さんの一見変わったビジネスモデルに対して、証券会社、機関投資家、マスコミなどの批評、批判は半端ではなかった。こうした外野は、過去にあった成功例しか信頼できない傾向を持っていたからだ。
しかし、捧さんは、自分の信念にのっとって、脇目を振れず、着実に自らのビジネスモデルを確立してきた。
4月27日に発表した2009年度決算の数字は、営業収益2854億円(対前期比2.9%増)、営業利益150億円(同2.4%増)、経常利益144億円(同5.2%増)、当期純利益64億円(同0.6%増)と不況を尻目に堅実な増収増益を達成した。
3月末現在の店舗数は986店(うちH&Gは847店舗)と2010年度中に1000店舗超えが確実視されており、HCとしては初の1社による4ケタを展開する企業が誕生することになる。
「商圏人口1万人に1店舗」というのが捧さんのH&G出店の基本戦略なので、理論上は全国に1万2000店の店舗展開が可能になり、1000店舗はまだ序盤戦という見方ができる。
信念をもって自分の方針を貫き、業界の常識を否定し続けなければ、こんなに凄い企業は生まれなかった。
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