シネマの世界では『アバター』が大暴れしている。けれども…
話題の映画『アバター』(ジェームス・キャメロン監督)の全世界における興行収入が18億5500万ドルに達し、公開後、わずか39週間目にして、『タイタニック』(同監督)を抜いて史上最高額を記録した。すでに第67回ゴールデングローブ賞ではドラマ部門の作品賞、監督賞を奪取。この2月2日には第82回米アカデミー賞の各部門候補作の発表が予定されており、大量ノミネートが確実視されている。
遅ればせながら私も先週観てきた。3D仕様の鑑賞料金は2000円と高い。
感想を正直にいえば、3D(three dimensions=3次元)映像とコンピュータグラフィックの技術の進化には、驚かされたものの、映画自体にはさほど感激しなかった。内容は勧善懲悪のストーリー。人間ってそんなに単純なものじゃないだろう、ととくに悪役たちの人物設定の甘さに疑問符。また戦闘シーンが多くあり、宇宙人も地球人もいやになるほど死に過ぎる。
「それは、もうあなたが年をとってしまった証拠。一昨日いらっしゃい」と言われてしまうのがオチなのだがよくわからないのだから仕方ない。
同じような感情は、『タイタニック』を観たときにも抱いた。
「なんで、この作品が空前の大ヒットなの?」。
その上、主要部門こそ逃したものの、1997年度のアカデミー賞11部門を獲得。リサーチに5年の歳月を費やし、総製作費2億ドルと聞けば、みんなに話を合わせるために「納得しちゃおうかな」と迷ったりもするのだが、でもでも、「なんで?」というのが当時の感想だった。
アカデミー賞11部門を受賞した作品として思い出されるのは『ベン・ハー』(ウィリアム・ワイラー監督)だ(2003年度、『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』〈ピーター・ジャクソン監督〉も11部門を受賞)。
チャールトン・ヘストン主演の5時間近い大作に固唾を飲み続け、スクリーンを見守り続けた。圧巻は戦車による競馬のシーン。コンピュータグラフィックの技術がいかに発達しようと、エキストラが生死を賭けることで実現できた臨場感は今後も簡単には出せまい。ユダ・ベン・ハーの生涯を追ったストーリーも秀逸――。
けれども、そこまで心動かされるものは、『アバター』にも『タイタニック』にもない。
もちろん作品の趣向も違うし、作品同士を比較すること自体がバカげていることも承知しているつもりだ。しかも、日ごとに年老いて行く自分の感性に自信があるわけではない。
それでも、2つの作品の飛びぬけた良さというものがよくわからないのである。
こんな風に考えてしまう最大の原因は、作品の作り手に対して大きな不信感を抱き、用心深くなっているからだろう。
ヒットさせてやろう、売ってやろう、感動させてやろう、といった類の思惑が作品の隅々に顔をのぞかせ、それが、この食傷感の直接的な原因になっている。
まあ、保守的で天の邪鬼なオヤジの戯言と聞き流してほしいのだが、2008年に公開された『スラムドッグ$ミリオネア』(ダニー・ボイル監督)と『グラントリノ』(クリント・イーストウッド監督)には、いたく感動したことは付け加えておきたい。
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