少しのことにも、先達はあらまほしき事なり
吉田兼好の『徒然草』第52段は「仁和寺にある法師」だ。
仁和寺にある法師、年寄るまで石清水を拝まざりければ、心うく覚えて、ある時思ひ立ちて、たゞひとり、徒歩より詣でけり。極楽寺、高良などを拝みて、かばかりと心得て帰りにけり。
さて、かたへの人にあひて、「年比思ひつること、果し侍りぬ。聞きしにも過ぎて尊くこそおはしけれ。そも、参りたる人ごとに山へ登りしは、何事かありけん、ゆかしかりしかど、神へ参るこそ本意なれと思ひて、山までは見ず」とぞ言ひける。
少しのことにも、先達はあらまほしき事なり。
かいつまんで現代語にするなら、「石清水八幡宮を拝みに行ったけれども、案内がなかったために勘違いして、その手前まで行って帰ってきてしまった。どんな些細なことにも指導してくれる人は欲しいものだ」という意味になる。
ノウハウ本や旅行本が売れることの本質は、こんなところにあるのだろう。
実際に、経験者の的確なアドバイスというのは、どんなことでもありがたいものである。
ところが、この頃は、周囲に年上がいなくなってきた。ちょっと前までは、どこに行っても若輩者だったはずなのに、気がつけば、自分が一番年上という場も少なくない。
うるさく言われることはほとんどなくなり、ほっとするところもあるけれども、それはそれで不安なものでもある。
しかも、最近は、世の中の変化が激し過ぎて、過去に経験したことがない局面に遭遇するケースも多々ある。
そして、そんな時はいつも「少しのことにも、先達はあらまほしき事なり」と呪文のように呟いているのである。
千田直哉の続・気づきのヒント の新着記事
-
2024/09/02
魅力的な売場…抽象的な誉め言葉の意味を明確化するために必要なこととは -
2024/08/02
日本酒類販売社長が語る、2023年の酒類食品流通業界振り返り -
2024/07/03
「何にでも感激する経営者」の会社が業績が良い“意外な”理由 -
2024/06/07
経費率16%なのに?ローコスト経営企業が敗れ去るカラクリとは -
2024/05/23
キットカットをナンバーワンにしたマーケター「アイデアより大事なこと」とは -
2024/04/15
スーパーマーケット業界のゲームチェンジャー、オーケー創業者・飯田勧氏の経営哲学とは