“職人”VS“サラリーマン”
チェーンストア理論を固める骨格に“標準化”や“簡素化”があることは言うまでもない。
実際に、黎明期の食品スーパー(SM)チェーンが生鮮3品の品質管理業務を“職人”の技から“サラリーマン”のマニュアルへと“標準化”“簡素化”させるまでには涙ぐましい努力があった。
こうしたプロセスは、安土敏氏の著作に多く語られており、SMチェーンがビジネスとして無事、テイクオフを終えることができたのは、先達の労力の賜物であると、感服させられるところだ。
しかし、努力ももちろんなのだが、SM創世記のころ、“サラリーマン”には周囲からのバックアップもずいぶんあったらしい。
たとえば、地方市場の仲卸たちである。
あるチェーンの幹部は言う。
「仲卸たちは、“職人”に対してはいい意味での競争意識を持っていた。だから、あまり良くない商品を売る場合にも、相手が納得したうえで仕入れるのであれば、構わない、と両者の間には狐と狸の騙しあいのような駆け引きがあった。ところが“サラリーマン”は全く商品知識がない素人である。仲卸たちは妙な同情を抱き、無垢な彼らに対しては嘘のない商売を行った」。
だから、SMチェーンは“職人”を抜きにしても、なんとかビジネスモデルを確立することができたし、実際、部門間を超えた極端な人事異動が繰り返されるなかでも、仕事を回すことができた。
ところが、現在のような競合激化にともなって、“サラリーマン”の力だけでは乗り切れない局面もまた多くなっている。
“職人”技の復活である。
消費者は、“職人”の捌いた魚と“サラリーマン”が捌いた魚を同じ価格で選べるなら、“職人”のほうを選ぶ。そして、“職人”の技術を備えたテナントやコンセッショナリーが確実に力をつけてきている。
“職人”技が必要とされているのは、SMチェーンの話だけではない。
たとえば、ホームセンターのリフォーム売場などでも同じ問題が起こっている。
「人事異動のスピードが速すぎて、本部の担当者は常に素人レベル。売場にもプロはいない」とある住宅設備機器メーカーの幹部は嘆く。
適材適所の大義名分のもと、次々とジョブ・ローテーションを実施するのは、チェーンストア企業の性とも言えるが、競争が激しい中で、勝ち残るためには、“職人”的なプロの育成もまた見直したいテーマだ。
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