“マリトッツォブーム”の火付け役「アマムダコタン」ヒット連発の極意とは

2022/05/20 05:55
    両角晴香
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    20224月、春の太陽が照りつける中、国道246号の青山通り沿いに50人ほどの行列ができていた。客のお目当ては、爆買い必至のパンの楽園。半年前にオープンした、ローマ菓子・マリトッツォブームの火付け役とされるパン屋「AMAM DACOTAN(アマムダコタン)表参道店」(本店:福岡県福岡市中央区)だ。オーナーの平子良太さんはフードとデザインの専門家で、彼が手がけるテーマパークのようなパン屋に多くのファンが詰めかけている。

    1150種の焼きたてパン。迷う楽しさも

    アマムダコタン表参道店
    アマムダコタン表参道店

     その日の待ち時間は約2時間だったが、お客は長期戦に慣れた様子で、日傘を片手に次々と列に加わっていた。2時間後、ようやく入店すると、“ジブリの世界”のような非日常空間と、焼きあがったパンがじゃんじゃんテーブルに並べられる躍動感にワクワクした。総菜パン、菓子パン、ドーナツ、バケット、マリトッツォ、季節の商品、表参道限定品……。あれもこれも食べてみたくなる。手元のトレーにパンが乗らなくなりやむなく会計に進むと、3000円を軽く超えていた。このワクワク感は、テーマパークのそれに似ている。

     「感動の美味しさで、購入に辿り着くまでの時間は忘れ去った」「パンに6000円注ぎ込んでしまった」などの感想がSNSに多数寄せられ、店で体験したワクワクが次なる口コミにつながっているようだ。

     オーナーの平子良太さんにアマムダコタンの人気の秘密を聞くと、「体験することに価値を感じてもらえているのではないか」と淡々と答え、浮き足立った様子はない。アマムダコタンを知るためには、前提として平子さんの“タグ”(分類やジャンル)を把握しておく必要がある。料理、パン、ドライフラワー、店舗建築、アンティーク家具バイヤーの5つのタグから成り、フードとデザインの両軸で、独特の世界観を表現し続けてきた。

     2012年、福岡にイタリアンレストラン「パスタ食堂ヒラコンシェ」を開店して以来、カフェやドライフラワーショップを次々と展開。「レストランでパンを提供していたので、いつかは自分のパン屋をと夢見ていた」と話し、2018年「アマムダコタン」を開店。さらに20214月末には、パン屋に囲炉裏を導入した「ダコメッカ」をオープンして話題をさらった。202110月、東京の一等地に良い物件が見つかったことから東京進出を果たすと、ジブリ映画のファンだという平子さんの空間デザインにも注目が集まり、アマムダコタンは全国区となった。

    オーナー
    オーナーの平子良太さん

     東京を目指した目的の一つは、スタッフ育成だ。現在、表参道店はパン製造を78名、接客は5名ほどで店を切り盛りしているが、パン業界の異端児とも言える平子さんのもとで働きたい若手は大勢いる。技術だけでなく、ケチャップやマヨネーズなどの調味料もその日使い切る量を一から手作りし、売り切るという姿勢は、現場でしか学べない。「若い彼らにチャンスをと、支援する気持ちで東京を目指した」(平子さん)。アマムダコタンは、スタッフの丁寧な接客にも定評がある。ユニークな発想や話題性だけではヒットは続かない。そこに質が伴うことで、次のヒットが生まれるのだろう。

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