“遊び心”のあるMBWA
「Management by walking around」(MBWA:巡回による管理)を実践する経営者は思いの外多い。ウォルマート創業者の故サム・ウォルトン氏は、その代表格であるし、コストコのジム・シネガルCEO(最高経営責任者)も全米に展開する400店舗を1年間ですべて回ることをノルマとしているそうだ。
“臨店”ということで思い出されるのは、ユーストアの創業者でユニーの社長、会長、相談役を歴任した家田美智雄さんだ。リストラを断行していた当時の家田さんは、単身でふらっとどこの店舗にも突然現れた。
文句や小言を言われることを嫌った店長たちの間には自然発生的に電話を使ったネットワークが生まれ、「いま金沢文庫店(神奈川県)を出たところだから、次は日吉店辺りに顔を出すだろう」といった情報が飛び交った。
ところが、こうした動きを察知した家田さんは裏をかき、掛川店(静岡県)に突如として現れる――。
ふいを突かれた店長は「あちゃちゃちゃちゃー」だ。
こんな攻防を繰り返すうちに、店長たちは、“臨店”を予測して、“泥縄”的に店舗を装うことをだんだんバカらしく思うようになり、常日頃からいつ“臨店”されても問題のないような店舗管理をするようになっていった。
家田さんは、現場を回ることで“こころ”の部分も含めた店長教育を施したわけだ。
オークワの福西拓也(社長)さんもMBWAの実践者の1人だ。お盆と年末商戦期など1年に3回は、7泊8日という過酷な店回りの旅に出る。営業本部長時代は、自分でクルマを運転しての活動だったが、山道が多く危険な和歌山県の地域特性もあるのだろう。最近は秘書兼運転手との2人旅。決済が止まらないように、運転手は交代制になっている。交代要員は、重要書類を携え、中継点に向かい、社長の決裁を受けた書類は(前)運転手とともに帰路に着くというシステムだ。
福西さんの店回りも意表を突くのが特徴だ。たとえば、朝一番にある店舗を訪れ、店長とゾーンマネージャーなど関連部署に指示を出す。競合店を含め、12~15店舗を視察した後に、再び、朝一番に指示を出した店に引き返すのだ。「まさか」と目を疑い、「すぐにやっておけばよかった」と反省する店長。でも、もう遅い。指示したような改善の手が入っていなければ容赦のない大きな雷が落ちる。
MBWAの手法は、経営者によってそれぞれだが、“遊び心”も備えている家田さんや福西さんのやり方は、人間味があって、当事者ではない私には面白い。
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