職人レシピを著作権に!無人AIバウムクーヘン焼成機が解消する3つのこととは
技術伝承とレシピの著作権化が進む
プロジェクトが行き詰った際に、その運命を決めたのは「AIを活用するのはどうか」という外部の関係者のアイデアだった。
そのアイデアは以下の通りだ。ベテラン職人がバウムクーヘンを焼いた時の焼き色データを取得し、そのデータを使用して機械学習させ、学習したAIを機器に搭載する。機械につけた視覚カメラと温度センサーのデータをもとに、AIが焼き加減を判定するのだ。
プロジェクト開始から2年以上が経過していたが、開発の方向性はAI活用へと大きく変わった。そこで、機械学習による画像認識技術を開発する企業に協力を仰いだ。
機械学習に必要なデータは、ベテランの職人にTHEOを使って理想となるバウムクーヘンを何度も焼いてもらった。こうしてバウムクーヘン作りに特化したTHEOが完成したのだ。
本プロジェクトにおいて大変だったのは、「ベテラン職人の協力を得ることだった」と山田氏は語る。機械学習のために職人に協力してもらったが、最初のうちは「人に教えるのも大変なのに、俺の焼きの技術を機械が覚えられるのか?」とぼやいていたという。
「代表の河本が、THEOは社外でのみ使うこと、自社工場でのバウムクーヘンはこれまで通り職人が焼くことをきちんと説明した。すると職人も理解してくれるようになり、今では職人がTHEOを『自分の弟子だ』と紹介するようになった」
また、洋菓子店にとってレシピは秘伝である。隠しておきたいという気持ちをもつのが自然な気もするが、河本社長は「私たちの業界がよくなっていくのに必要なのは職人の地位向上だ。音楽の世界では曲に著作権があり、優れた人を発掘していく仕組みがある。洋菓子業界でもレシピの著作権があっていいのではないか。モノづくりができる才能のある職人のレシピをTHEOに覚えさせ、世の中に広めていくことが業界全体の底上げに繋がると考えている」と展望を話す。
THEOに優れたレシピを覚えさせれば、職人の技術をデータ化でき著作権のような状態が作れる。現在、THEOは焼いたバウムクーヘンの数に応じて、費用を請求している。今後はTHEOに登録したレシピが使われたときに、レシピの考案者に利益を還元していく仕組みも作りたいと考えているという。さらに、THEOがレシピを覚えることは職人の技術を後世に伝えることにもつながっていくだろう。最後に今後の展望について山田氏は語る。
つまりTHEOにより、職人の技術伝承が行われ、職人が新たに収入を得る方法が確立されることが職人不足問題の解決の一助となり、さらには人手不足で悩むホテルや小売店などでは人員を増やすことなく出来立てのバウムクーヘンを提供できるという「3つの課題」が解消されるわけだ。
「THEOが生まれてから3年が経ち、現在の導入店舗は19店舗になった。こちらで一方的に展望を描くより、ラブコールをくれた顧客と取り組むことで好循環が生まれたと感じている。当初の目的だった南アフリカにまだ納入ができていないが、最終目標として掲げている」