株式会社ベイシアグループソリューションズ
代表取締役社長 ベイシアグループCDO/CIO
樋口 正也 氏
9つの領域を重点にデジタル施策を展開
ベイシアグループの「ハリネズミ経営」とは、グループ31社がそれぞれ個性を生かしながら針のように尖った経営をすることであり、ITについてはグループ横断的に取り組んで行くこと。
経営環境が激変する中で、デジタルの施策をどうとらえるか。経営層からも質問されるが、私はバリューチェーンでとらえるのがわかりやすいと考えている。小売業なので商品を企画・開発・製造し、物流に乗せ調達し、店舗やECで販売する。バリューチェーンの中で物流とマーケティング、店舗の役割が全く違うように各バリューチェーンの領域の施策も変わってくる。さらに事業会社に共通するグループ横断的に必要な、例えばセキュリティや決済、基幹システムやインフラなどに加えてデジタル人材育成・採用も重要になる。社員のモチベーションアップのための働き方改革や人事制度もDX重点分野と考えている。
こういう中でデジタルと言ってもいろいろな領域があり、9月に新会社のベイシアグループソリューションズを設立し9つの領域を重点に施策を展開している。人材、経営、テクノロジーの要素を大事にしたいと考えている。自分たちがテクノロジーを効率的に実践できる筋肉質の組織になるためには、人材を内部で充実させ内製化することが必要になる。経営の視点から見れば、コスト競争力もアップする。
AIの活用をどう小売業のマネタイズにつなげるか
「リテールメディア」と関連する部分では、AIによる画像解析でサイネージの効果測定が挙げられる。AIというテクノロジーの話題よりも、経営の効果として出せるかどうかが重要で、店舗を広告効果のある場所にして、取引企業とのマネタイズに生かせる場所に変えて行く。テクニカルに画像解析してデモグラフィーがわかるとか、客数がわかるということより、いかに収益性につながるか。「リテールメディア」としてのマネタイズにつながるかということが必要になる。
構造化データによる需要予測は古典的なテーマであるが、グループのワークマンやベイシア、カインズなどの業態では需要予測のモデルも異なる。生鮮品を扱うベイシアでは、日々廃棄ロスと値引きロスと戦っている。いかにロスを削減するかが大きな課題だ。PB商品の初回発注量の問題やロングテール商品のモデルなど、ハイブリッドな需要予測モデルも作っている。自然言語としてお客様の声も重要。差別化した商品を作るためには、口コミなどのお客様の声を収集・分析し、それを生かす仕組みも必要になる。商品開発やマーケティングにも影響するため、AIすなわちデータの高度な利用に注力する領域となる。
デジタル人材の育成は若手だけでなく、経営層も育成の対象になる。経営陣が上を目指して視座を上げていけば、下の層もどんどんついていく。デジタル人材というが、私は逆説的にデジタル人材はいないと考えている。9つの施策を見ても、どのくらいスキルセットが必要か、人材に求められる要件も違ってくる。漠然としたデジタル人材という育成・採用ではなく、テーマに応じた育成・採用が大切になる。海外の先進企業では社員の半分がエンジニアというケースもある。そこまでいかないまでも、IT部門以外の組織でもデジタル人材を育てていく。そのために「ベイシアグループデジタルアカデミー」も開始した。「ベイシアグループDXビジョン2030」では、グループデジタル基盤の整備を手始めに、世界を目指しNew Retailの世界的モデル企業を目指していく。