トイレ、蛇口、洗面台、ガスコンロ、給湯器といった住宅設備機器の交換サービスにおいて、近年めざましい躍進を遂げている企業がある。住宅設備機器専門のB2C型ECサイトを運営する交換できるくん(東京都/栗原将社長)だ。長らくマーケットリーダーが不在だった住宅設備機器の単品交換において、同社はどのようにビジネスモデルを確立したのだろうか。
2020年に新規上場、足元業績は絶好調
交換できるくんは、ECサイト「交換できるくん」を通じて住宅設備機器の交換サービスを展開するEC専業リフォーム会社だ。
1998年に水回りのリフォームを手がけるB2Bの住宅設備工事業として設立され、2001年には業界で先駆けて住宅設備機器専門のB2C型ECサイトを開設。2012年以降、住宅設備機器と交換工事をセットにしてECで販売するというユニークなサービスで売上高を右肩上がりに伸ばし、2020年12月、東京証券取引所マザーズ市場(現グロース市場)へ上場した。
直近の24年3月期の業績は、売上高75億6500万円(対前期比25.2%増)、営業利益3億2800万円(同9.0%増)、当期純利益2億3000万円(同24.3%増)で、売上・利益ともに過去最高を記録している。
トイレ、蛇口、洗面台、ガスコンロ、給湯器などの住宅設備機器は、リフォーム産業で最大のセクターだが、顧客ニーズとのギャップが存在する。「大規模な工事をせずに、必要な住宅設備機器のみを交換したい」という顧客の要望に対し、収益性の観点から工事単価の低い単品交換に積極的に応じる業者は少なく、工事価格のブラックボックス化がリフォーム業界への不信感を助長している面もある。
リフォームのEC化率は現時点で10%未満と、まだ成長途上にある。取締役の吉田正弘氏は「お客さまのニーズは対面からネットに移行しつつある」とし、「リフォームのECは近い将来、導入期から成長期へ進むだろう」と見通す。
交換できるくんは、収益化の難易度が高いゆえにマーケットリーダーが不在となっている住宅設備機器の単品交換に特化しているのが特徴だ。見積から受注、交換工事、アフターサービスまで一気通貫した独自のビジネスモデルを構築。品質とスピードを両立させ、オペレーションコストを最適化し、価格優位性を担保しながら、収益を十分に確保している。
年間PV3000万超! 強みは圧倒的な情報量
そんな同社の競争優位性を支える基盤になっているのが、年間PV(ページビュー)数3000万超を誇るECサイト「交換できるくん」だ。ユーザーに有益な情報を徹底的に提供することで訪問者を増やし、そのうち一定の割合から受注を獲得。施工実績を積み重ねながら、施工事例やユーザーレビューなどのコンテンツも蓄積し、コンテンツ力の拡充によってさらなる集客につなげるという、住宅設備に特化したメディアとしての成長サイクルを実現している。
ECは、実際の商品を見たり、対面で商品説明やアドバイスを受けられないのが難点だが、「交換できるくん」は、5万ページ超もの圧倒的な情報量によって、現物や対面での説明がなくても、商品がわかる仕組みになっている。カテゴリーごとに主要メーカーの商品を品揃えし、売れ筋商品のランキングや新商品の紹介、メーカー横断での商品比較、機能の特性などの詳しい解説に加え、2万5000件超の施工事例や1万8000件超のユーザーレビューも掲載されている。
「交換できるくん」の月間訪問数は100万人弱(24年4月時点)。吉田氏はユーザーの傾向について「自分で情報を集めて商品についてきちんと調べ、十分に納得したうえで購入したいという“DIY”志向が強い」と分析する。
工事件数は年間約5万件、職人も採用中!
「交換できるくん」の見積は、現地調査を必要とせず、オンラインで完結する仕組みだ。20年以上にわたって蓄積してきたノウハウと年間4万件超の施工実績データを活用することによって、精度の高い見積を原則24時間以内に提示している。
価格は、住宅設備機器の代金に、工事費や部材費、廃棄費などを一括した「まるごとサービスパック」を加算するシンプルな体系になっている。また、見積金額を超える料金を追加で請求することはない。
年間工事件数は年々順調に増え、23年度には約5万件となった。工事件数の増加に合わせて「施工エンジニア」と呼ばれる職人を計画的に採用し、その人数は24年3月時点で186人となっている。
「交換できるくん」は、「ユーザーが欲しいものをひたすら提供する」という観点で様々なサービスを付加し、進化し続けている。22年10月には、全商品を対象に、設置後10年間、故障を無料で修理する自社の保証サービス「10年保証」を開始した。また、23年5月に壁掛エアコンの取扱いを開始し、エアコンの交換サービスも強化している。
近年は、「交換できるくん」で確立した事業基盤をB2Bの領域にも拡張している。21年に法人向け事業などを担う子会社を創設し、オーナーや賃貸管理会社らに向けたB2B事業を23年度から本格的に開始した。吉田氏は「24年度以降、提携先の大手メーカーや賃貸管理会社との取り組みを加速させていく」との方針を示している。