国内小売企業の在庫ロス(帳簿上と実際の在庫数が合わず発生する損失)は年間で5000億円以上にのぼり、そのうち万引きによる被害額は3分の1を占めるといわれている。小売店の万引き被害防止に特化した防犯用AI(人工知能)カメラの開発・販売を手がけるアースアイズ(東京都)の山内三郎社長は、「万引きによる在庫ロスは半減できる」と話す。小売企業における万引きを取り巻く概況と、アースアイズの取り組みについて山内三郎社長に聞いた。
万引きを「未然に防ぐ」メリット
現在、国内の小売企業における万引き被害額は、年間約1500億円にのぼるといわれている(アースアイズ調べ)。食品小売においてはセルフレジの導入が一般的になりつつあるなか、セキュリティの必要性は一層高まっているといえる。
アースアイズが提供するAIカメラは、来店客の不審行動をセンサーで検知するとバックヤードにアラートを発信する。従業員が該当のお客に「いらっしゃいませ」「何かお探しですか」などと声をかけることで、万引きを未然に防ぐ仕組みだ。アースアイズは2023年8月、AIカメラにラーニングシステム「学習システム-eeAIL」を搭載したことで検知精度が劇的に向上し、不審者の検知率が96%以上に達成したと発表した。
AIカメラのメリットは、万引きを未然に防げる点にある。万引きを取り締まる保安員(通称:万引きGメン)が万引きの実行を確認してから犯人を捕まえる従来のやり方では、万引き犯から暴行を受けたり逃走されたりといったリスクがある。「未然に防ぐ」というアースアイズの強みは小売各社に広まり、近年は食品小売だけではなく書店や釣具店でも導入が進んでいるという。
実際に、アースアイズのAIカメラを導入した化粧品チェーンでは、導入前に3200万円あった在庫ロスの金額が半期で61%減の1230万円まで減少、同様にドラッグストアチェーンでは導入前比67%減、ホームセンターチェーンでは同33%減と結果を出している。山内社長は「一般的な小売店なら、半期で在庫ロスを半減させることが可能だ」と語る。
店内に設置するカメラの台数は、標準的な400〜500坪の食品スーパーであれば8台程度で十分だという。犯行が起きやすい売場や通路、万引き犯の行動経路に絞ってカメラを配置することで、少ないカメラでも売上全体の8割を占める商品群をカバーすることができる。
山内氏は「この設置台数の考え方は、マーケティングにおける『2:8の法則』(パレートの法則:全商品のうち上位2割の売れ筋商品が売上全体の8割を占める法則)と同様だ。万引きされる可能性が高い上位2割の商品を重点的にマークしたカメラ配置が肝要になる」と述べる。
AIの活用で省人化の実現へ
山内社長はアースアイズを創業した15年以前に、保安員や万引き対策のコンサルティングを務めた経歴がある。山内氏は保安員時代、怪しいと感じた人物への声かけを行うことでロスを激減させたという。
山内氏は「警視庁が発表した万引き犯への聞き取り調査では、7割近くの万引き犯が『近くに警備員やスタッフがいたら実行しない』と答えている。小売店にとっての最たる目的は利益を確保することで、万引き犯を捕捉する必要はない」と語る。
アースアイズは、小売企業が店舗にAIカメラを導入する際、従業員に万引き犯の役を演じさせるロールプレイングを実施するサービスを行っている。万引き犯を演じることで従業員に犯人の心理を理解させ、万引きを未然に防ぐ確率を上げるねらいだ。
同社はほかにも、昨今で導入が進むセルフレジに対応する防犯システムを提供している。お客が手に持っている物体を別々に認識し、スキャン漏れを検知するとバックヤードにアラームが鳴るという仕組みだ。
各種コストの上昇が問題視される今、セルフレジのようにローコストオペレーションを実現するシステムの必要性は増している。その際に、AIを生かしたデジタル・トランスフォーメーション(DX)が必要不可欠だと山内氏は語る。
「多大なコストをかけて闇雲な数のアナログカメラを防犯用に設置しても、思うような成果につながらず費用対効果に優れないケースが多い。どういう目的があって、それを叶えるにはどのようなシステムのカメラが必要か、経営者が理解していることが大切だ」(山内氏)