顧客との接点強化にスマホアプリを活用する企業が増加する中、スポーツ用品大手のヒマラヤ(岐阜県/小田学社長)が新たなスマホアプリを導入し、店舗売上を伸ばしている。EC経由での販売も堅調な同社は、実店舗とオンラインの販売・サービスを統合し、両者の区別なく一体的なサービスを提供することで顧客満足度を高める。スマホアプリを導入した背景や狙い、今後拡充予定のサービスなどについて、EC事業本部 本部長の森山直樹氏に話を聞いた。
店頭在庫がない商品の受注が約20%アップ
幅広いスポーツ用品を取り揃えるヒマラヤでは、現在、実店舗とオンラインの販売・サービスを融合する「ユニファイドコマース推進プロジェクト」を進めている。
早い時期からEC販売の拡大を視野にシステム開発を進めてきており、EC化率は30%を目指している。一方で、全国に約100の実店舗をもち、「店頭に在庫がなくても他店に在庫がある商品については、最短翌日に自宅に配送するサービスを展開するなど、店舗売上も拡大してきた」と、EC事業本部 本部長の森山直樹氏が話す通り、リアル販売の店舗を持つからこその大きな強みを合わせもつ。
そんなヒマラヤが狙っているのは、豊富な品揃えの中から、顧客が求める商品をさらにスムーズに手元に届けるサービスを開発すること。その目玉として、今春新たにスマホアプリをリリースした。「実店舗とオンラインの両面から、顧客満足度を高めていきたい」(森山氏)
スポーツ用品ならではの特徴として、実際に触ってみなければわからない使用感やサイズ感などを確認してから購入したい、というニーズが強い。一方で、確認したくて実店舗に足を運んでも、希望のサイズやカラーの在庫があるとは限らず、店舗スタッフに尋ねて探してもらう必要があった。この手間を解消するのが、スマホアプリだ。アプリで欲しい商品のバーコードを読み込むと、一目で在庫確認ができるようになっている。
「仮にその店舗に在庫がなくても、ボタン一つで他店舗から自宅などに配送するよう指示できる。これまで店頭に在庫がない場合、他社のECサイトで購入されるお客様もいらっしゃったが、その場でアプリを活用して自宅配送可能な注文も簡単に選択できるようになっただけでも、売上の増加につながっている」(同)
希望のサイズをスムーズに購入できるのはもちろん、その場にない商品も自由に選べるようになり、顧客の選択肢は大きく広がった。
アプリ導入でアクティブユーザーが増加
これまでの会員システムも、購入額に応じてヒマラヤポイントを付与し再来店を促す役割を果たしてきたが、スマホアプリは商品を求めて店頭を訪れる顧客に新たな価値を提供し、アプリ活用の機会を増やすことを狙っている。
たとえば、バーコードによる在庫確認以外にも、一部店舗においてテニスとバドミントンのラケットのガット張り替えやグリップ調整など、店頭に来て何時間も待たされることがないよう、アプリによる事前予約を近日中にリリース予定となっている。
ヒマラヤ会員の数は200万人を超えるが、頻繁に利用するアクティブユーザーは少なかった。一方、リリースから約9か月間でスマホアプリのダウンロード数は約65万件。森山氏は、「アプリユーザーとなったお客様は、会員になってダウンロードされただけではなく、利用頻度が増えている。想定していた以上に活用が進んでおり、十分な手ごたえを感じている」と話す。
さらに、日常的に他社のスマホアプリを利用している顧客も多いことから、現場では「こんなサービスがほしい」といった具体的な要望も多く寄せられているという。今後は、それらの要望も取り入れながら、アプリを通じて得られるビッグデータを活用したサービスの開発、提供も検討していく。
「来店いただいたお客様に便利に買い物をしていただくだけでなく、今後は来店いただく前のお客様に新商品の入荷状況をお届けする、商品在庫を事前に確認して試着予約できるようにするなど、お客様と密なコミュニケーションをとるための情報やサービスを提供していくことを考えている」(森山氏)
株主優待やリユース品買い取り予約にも活用
同社では、100株以上の株式を保有する株主に対して年に2回割引券を発行しているが、新たにアプリと連動した株主優待システムも導入する。「これまではリアル店舗のみで利用可能な紙の値引き券を優待品として贈呈してきたが、必要な事前登録をいただいたお客様には、値引き券に代わってヒマラヤポイントが贈呈される。アプリとの連動によって『ヒマラヤオンラインサイト』でも利用できるようになるほか、株主限定販売の商品の閲覧、購入ができたり、追加ポイントが付与されるといった特典を用意する予定」と森山氏。株主優待の内容を拡充しロイヤリティ向上につなげる考えだ。
さらに、SDGsやESGの観点から、スポーツ用品のリユース事業もスタートする。不要となった商品を店頭で買い取り、商品に詳しい専門スタッフがプロとしての目線で補修、メンテナンスなどを施し、品質をしっかりとチェックした上でリユース品として提供していく予定だ。
「現状では、春先を目標に進めているところ。リユースショップに商品を持ち込むと長時間待たされてしまうという顕在化している課題があることから、当社ではアプリによる買取予約の機能を検討するなど、お待たせすることのない仕組みを目指す」(森山氏)
EC注文分も出荷は店舗から
早期からオンライン販売に注力してきた同社では、店舗在庫とEC在庫を分けることなく管理、出荷できるようシステム化されているのが大きな特徴だ。すでにEC化率は3割に近づいているが、店舗全体で1日あたり1万5,000 ~2万点程度を出荷できるパワーを有していることから、「EC経由での注文も、EC専用の物流倉庫から出荷するだけではなく、配送先に最も近い店舗に自動的に振り分けられ、大部分は店舗スタッフの手で店舗から出荷してきた」と森山氏は言う。売上は出荷店舗に計上される。
「私たちが目指しているのは、店舗エリアにお住いのお客様に、便利で満足のいく買い物をしてもらうこと。店舗はお客様との接点となる“ターミナル”として稼働している」
一方で「お客様にとっての利便性を高めるために、追加したいサービスや機能は多が、システム開発が追いついていないのが課題」とも話す。ヒマラヤのスマホアプリの今後に注目していきたい。