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オフィス街に突然現れる青果店 ファミリー層をあえて狙わない「旬八」の出店戦略

流通小売店がビジネスする上で、居住人口の多さや世帯の特徴などの多角的な調査した「商圏」が重要なことは言うまでもない。「商圏人口が多ければ多いほど商売には有利」と言われてきたが、最近ではその常識とは異なる戦略で繁盛している流通小売店が出てきている。流通小売企業の成長を支援するコンサルタント榎本篤史氏の『東京エリア戦略』から、その一部を紹介する。

オフィス街に次々に出店する「旬八」の店頭。近隣のビジネスパーソンからの需要を取り込んでいる

ただ青果を並べているわけではない

 「旬八」という青果店をご存じでしょうか。虎ノ門、赤坂、五反田、大崎、東京駅丸ビルと、いわゆるオフィス街を中心に店舗数を増やしつつあります。オフィスがひしめくビルの 1 階に急に野菜が並んでいる光景が現れるので、初めて見るとびっくりすると思います。それだけ意外性のあるエリアにお店があるのが特徴です。

 正直、「誰がこんなところで野菜を買うの?」と私も不思議に思いましたが、周辺に勤務する方が会社帰りに買っているようです。また、周辺にスーパーマーケットが見当たらないようなエリアでもあるので、近隣住人にも重宝されているのだと思います。

 虎ノ門の店舗は、野菜を売るだけでなく、野菜とおかずのボリュームたっぷりで500円前後とお手頃価格のお弁当も販売しています。さらに、ビュッフェ形式の「キッチン&テーブル」も併設されています。販売している野菜を使ったビュッフェで、ランチからディナーまで 90 分税込1650円で食べることができます。果物を使ったお酒や珍しい日本酒、地ビールなども仕入れて販売しているので、大人のためのビュッフェと言えるでしょう。

 新鮮な野菜をたくさん食べられるので、私が行ったときにはやはり女性のお客様ばかりでした。店内はコンクリート打ちっぱなしのようなところですが、無印良品のような雰囲気もあり、逆にカラフルな野菜料理が映えて目を引きます。

 店員さんが、「このトマトは○○産で、農家の〇〇さんがつくっているんですよ」と野菜について説明してくれます。それを聞いて、実際に食べて、美味しいとなると、「じゃあ、このトマト、 1 袋買って帰ろう」と思いますよね。

 青果店として野菜を並べて売るだけでなく、その場で食べることができて、それに合ったお酒なども購入できる。健康志向で新しいものを試してみたいビジネスパーソンにぴったりのコンセプトを携えて、この場所に、「ただの青果店ではない」この形態で出店していることがわかると思います。

エリアの「隠されたニーズ」掘り起す

 見方を変えれば、「旬八」は、いわゆる「青果店がありそう」なエリアには出店していません。商店街があって、子どものいるファミリー層がたくさん居住している、そういったエリアを狙っていないことは確かです。

 むしろ、都会のど真ん中で、個人店がほとんど姿を消してチェーン店だらけになってしまった、昔ながらの青果店がなくなってしまったようなエリアに出店しています。これも揺り戻しというか、時代が一周してまた純粋な青果店が都会に戻ってきているということだと思います。

 コンビニやスーパーマーケットなどは便利ではありますが、もっと新鮮で美味しいものを安く食べたいと思うと、街の精肉店や鮮魚店、青果店で買いたいと思いますよね。ただ、そういったお店は都心では減っています。だからこそ、そんな都心のエリアで青果店を始めることで、注目も浴びますし、潜在化されていた客層のニーズに応えることもできるのです。

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 昼食をコンビニの弁当や安いチェーン店のランチで済ませるビジネスパーソンは少なくありません。ただ、彼らもできれば体に良くて美味しいもの、それをリーズナブルに食べたいと思っているはずです。

 青果店であることで、「旬八」の野菜の新鮮さや美味しさは伝えられます。野菜を売ることはもちろんですが、お弁当やビュッフェを通して、少しでも美味しい食事、健康な食事を忙しく働く人たちに提供したい。そのために最適なオフィス街ど真ん中のエリアで勝負しているのだと思います。

 エリアごとに隠れたニーズはまだまだあるでしょう。そのエリアのニーズをどう発掘して、店舗展開していくのか。「こんなところでこの手のお店をやっても無理だろう」ではなく、「こんなエリアだからこそ、こんなお店が求められているはず」という発想の転換が必要です。