東京都を中心に食品スーパーを展開するオオゼキ(東京都/石原坂寿美江会長兼社長)は4月12日、東京都世田谷区の「オオゼキ松原店」をリニューアルオープンした。年商40億円をめざす旗艦店の位置づけだ。オープン2日前に開催された「お披露目会」に本誌は招かれ、“オオゼキらしさ”を随所で垣間見た。
年商目標40億円!
創業の地で大規模改装
どこか長閑な2両編成の東急世田谷線「松原」駅を下車してすぐ、閑静な住宅街の一角に松原店はある。
実はこの店、オオゼキにとって特別な意味を持つ店舗である。というのも、同社の創業者である佐藤達雄氏が昭和30年代前半に、この地でオオゼキの源流である乾物店を開業したからだ。その後、生鮮を導入して食品スーパーに姿を変え、今ではオオゼキ全体でも3本の指に入る繁盛店となっている。
地域で絶大な支持を集めていた松原店だが、2018年4月に改装のため閉店。約1年間を費やしてスクラップ&ビルドのかたちでリニューアルオープンにこぎつけた。売場面積は約1000㎡、年商目標は40億円をめざすというから、並々ならぬ力の入った店であることが伺い知れる。
社長とお客が記念撮影!?
オオゼキならではの“距離感”
オープンの2日前にあたる4月10日、小雨が降りしきる中、松原店で「お披露目会」が開催された。招待されたのは、取引先のメーカー関係者や常連客など百名以上。店内では職人がその場で握った寿司が振る舞われたほか、有名なイタリアンレストランのシェフによるパスタの実演調理イベント、ワインの試飲や神戸牛の試食などが行われ、熱気に溢れていた。
悪天候にもかかわらず多くの人でごった返す店内は、さながらお祭り状態。しかし一般的な新店のオープニングイベントと異なるのは、売場のいたる所で従業員と常連客が楽しそうに会話している様子だった。なかには、オオゼキの石原坂寿美江会長兼社長と記念撮影をしているお客までいた。野暮な話かもしれないが、1000億円に迫らんとする売上規模を誇る食品スーパー企業の代表が、売場を動き回りながら常連客との会話を楽しみ、撮影にも応じるという様子はなかなか見ない光景だろう(ちなみに石原坂会長兼社長はメディアには一切登場しないことで知られる)。
1万円超の高級魚も揃える
さて、肝心の売場を見ていこう。業界関係者ならご存じの方も多いと思うが、オオゼキは徹底した個店主義をとっていることで知られる。仕入れは各店舗の部門担当者に一任され、市場での買い付けも店舗ごとに行っている。そのため、商品政策(MD)は店によって大きく異なる。
松原店は広い売場スペースを生かし、日常使いの商品に加えて、個店仕入れならではのユニークな商品を各所に差し込んでいるのが特徴だ
まず、生鮮売場で目を引くのが鮮魚だ。平台の冷ケースには旬の魚介類が所狭しと並ぶが、なかには1万円を超える高級魚も。これはお披露目会限定のディスプレイではない。「店舗周辺には小規模の飲食店も多く、旧店舗でも素材の仕入先として使っていただいていた」(売場担当者)ためで、一般家庭向けの大衆魚に加えて、飲食店向けの商材も高級魚を含め豊富に揃える方針だという。お披露目会でも、飲食店関係者と思しき招待客が部門担当者と熱心に会話する様子が見られた。
また青果売場では、「東京野菜」と銘打ったコーナーを設け、東京都下の生産者から仕入れた旬の野菜を訴求。また、有機野菜やイタリア野菜も集積するなど、幅広い選択肢を提供している。
ワインは600SKUを展開
総菜・ベーカリーは自社運営
生鮮以外で特筆すべきはワインの品揃えで、オオゼキ最大規模の約600SKUを展開。フランスワインや国産ワインはもちろん、ギリシャワインや東ヨーロッパのワイン、「ビーガンワイン」といった商品もラインアップに加えて、選ぶ楽しさを演出している。
また、店内製造の総菜とベーカリーは、オオゼキとしては珍しく、いずれも直営での運営。この理由について明瀬雅彦副社長は「直営でやったほうが商品開発の自由度が増して、その店のお客さまのニーズに合った商品を提供することができる」と話す。ベーカリーについても、「(自社運営によって)スーパーの枠を超えたレベルの商品を提供していきたい」(同)として、専門店に負けない本格的な味を追求し、集客装置としたい考えだ。
オオゼキは、関東ローカルの食品スーパー企業の中でも有数の集客力を誇ることで知られる。その背景には、商圏のニーズに合った個店MDだけではなく、競合他社ではなかなか構築できない、従業員と顧客との密な関係性があるのだろう。ECの台頭や業種業態を超えた競争が熾烈化するなかで、オオゼキならではの店づくりの手法に学ぶべき点は多い。