ダイヤモンド・リテイルメディア・カンファレンス開催レポート Amazon大競争時代の流通業成長戦略ビジョン AI×IoT×クラウドの進化で加速するデジタルトランスフォーメーション
【特別対談】デジタル・ディスラプターAmazon.comに対抗するための戦略」~No.1リテールテクノロジーカンパニーをめざして~
トライアルホールディングス 取締役副会長グループCIO 西川 晋二氏
× ダイヤモンド・リテイルメディア 編集局局長 千田 直哉
リアル店舗にとってECの台頭は脅威だ。なかでもアマゾン・ドット・コム(Amazon.com:以下、アマゾン)は日本で急伸を遂げている。そうしたディスラプターへの対抗とともに、社会がIoT・AI時代に突入し流通業にとっても看過できない課題となっている。「ダイヤモンド・リテイルメディア・カンファレンス2017」の最後は、それら流通業を取り巻く課題にどう向き合っていくかをトライアルホールディングス取締役副会長グループCIO(最高情報責任者) 西川 晋二氏とダイヤモンド・リテイルメディア編集局局長 千田直哉が語り合った。
アマゾンのアキレス腱はラストワンマイル
千田 今回のカンファレンスは対アマゾンの戦略展開をテーマとした。アマゾンはホールフーズを買収しリアル店舗にも進出している。もしアマゾンが米国同様、日本にリアル店舗を積極展開するという事態になったら、日本の流通業はどう対応するのか。
西川 アマゾンのビジネスにも見習うべきところは多い。顧客第一主義で素晴らしいサービスを提供しお客さまの支持を集めている。ただ宅配主体では、ラストワンマイルが立ち行かなくなるのではと考えている。日本はとくにドライバー不足で宅配業者も厳しい状況にある。ラストワンマイルの問題が解決すれば、ECだけでなくリアル店舗を多く持っていることが強みになる場合もある。ピックアップ拠点にも活用できる。結局、ECであってもリアル店舗であってもどこがいいとか悪いとか、どこが勝つか負けるかでもなく、お客さまにとっていいサービスが切磋琢磨してできればいいことだ。
千田 しっかりリアル店舗を生かす戦略で、お客さまに最適なサービス、楽しい買物体験を提供していくだけと。
西川 われわれとしても生き残る努力をして、お客さまに選ばれなければならない。アマゾンもホールフーズを買収して、リアル店舗を持つことになった。そのリアル店舗をまずはアマゾン流のやり方で、たとえばアマゾンエコー(Amazon Echo)の販売の場として広げるだろう。いちばん考えられるのは既存の500店舗を起点として、ウォルマートがやっているようなピックアップのステーションとしてラストワンマイルも含めた、物流の充実に使うことだ。つまりアマゾンこそリアル店舗を持っている小売に対して、競合していかなければならない立場になったわけだ。リアル店舗のメリットが大きいことに気付いて参入したのも、ECだけですべてが済むというわけではないということをアマゾン自身も気がついたからだ。
中国で増殖する無人店舗から得る技術はあるか
千田 さて、これからリアル店舗がアマゾンに対抗していくという立場からみて、アマゾン・ゴー(Amazon Go)をどうとらえているか。
西川 すごく刺激になっている。実際にシアトルまで実験店を見に行ったが、店内には入れなかった。
詳しい人に聞くと、17年7月の段階ではまだ店舗の開発者が常駐していたという。店舗には20人くらいしか入れず、まだ中途半端な感じのようだ。まったく同じものをつくろうとは思わないが、中国のビンゴボックスなどは現地に見に行った。中国では急速に無人店舗が増えており波が来ている。
千田 中国で無人店舗が増えている状況をどうとらえているのか。
西川 無人店舗の展開方法は3種類あると考えている。1つめは、すべての商品をRFID(ICタグ)で管理する方式。これは、手間がかかるがチェックアウトが簡単になる。2つめ少し現実路線でセルフスキャン、セルフレジと同様の方法。どちらも入る時にWeChat PayやAlipayの認証を使う。中国では個人の信用情報を重視することで、万引などの不正行為を抑止しようとしているようだ。3つめはアマゾン・ゴーと同じような方法を導入するというもの。それは多数のキネクトを天井に配置して棚ごとにカメラをつけてお客さまを認識して顔認証によって、入ったお客さまがどの商品を買ったかというのを棚の位置で検出し、てチェックアウトするものだ。個人的にはそれらを見て、参考になる部分もあるし、そうでない部分もある。
千田 一方、トライアルでは、“トライアル・ゴー”の開発構想があると聞いた。
西川 “トライアル・ゴー”ではなく「トライアル・ラボ」と呼んでいるが、2017年10月、本社1階に従業員専用の店舗をつくり、現実路線パターンつまりセルフチェックアウト型とカメラによる認証型の2種類を取り入れて、プリペイドカードか給与からの天引きで買物できるようにした。次のステップとして大型の店舗を展開するとか、スーパーセンターでも導入してみたいと考えている。
ECを学び直しほかの事例を研究して再挑戦も
千田 アマゾンはEコマースやアマゾンエコー、リアル店舗を通じて顧客データを収集している。トライアルはリアル店舗で顧客情報を収集している。トライアルのネットストアから情報収集してドッキングするということはあるのか。
西川 自社ブランドのお茶を、楽天とアマゾンで売っていて人気商品になっている。それ以外のECはいったん縮小している。今回のウォルマートの動きなどを参考にしながら、しっかり学んで戦略を立て直して、再度ECに挑戦するということを考えている。
AIスピーカーについても独自にはやらないが、今後の展開としてはグーグルに参加することなどさまざまなケースが考えられる。パートナーと一緒にやることも含めてウォルマートのやっている方法も学ぶ必要はあると感じている。
千田 現在、トライアルのシステム開発は日本と中国に約300人の人員を抱え、自前で開発していくことが中心だ。今後アウトソーシングについては検討していくのか。
西川 われわれが自身で持っていないものは外部から取り入れるしかないし、われわれとしてコアの事業の強みに対して寄与しないもので、一般的に多くの企業がやっているものをつくる必要はないので、そういう是々非々の選択をしていく。
店舗に来るお客様にわかりやすく、楽しく買ってもらえるように
千田 商品開発やMD(商品政策)、サービスでの差別化についてはどのように具体化していくのか。
西川 メーカーさんと一緒にやるという方針に変わりはない。PB(プライベートブランド)を自社で懸命に開発していた時期もあった。しかし、現在は、メーカーさんと一緒にいいものをつくって行くというジョイントビジネスプラン(JP)の方向に舵を切った。欧米では常識だ。それ以降は、すごい勢いでJPを進めている。メーカーさんと協業することによって商品を開発し、リアル店舗やECにかかわらずお客さまが来てくださるところで買っていただくための商品の揃え方という点で差別化していく必要がある。お客さまに対していいものをどれだけ安く、わかりやすく、買い忘れがないとか、欲しいものが欠品してなくて買えたという満足とか、買うつもりはなかったけど商品を見て気に入って、しかもクーポンがあって安いから買おうとか、そういう楽しい買物ができるリアル店舗での体験は強いと思う。
顧客体験向上もIT活用がベースに
千田 IT化、デジタル化していっても店舗を強化していくという意味は、小売業には奇策はない。目の前のお客さまにどう対応し、買ってもらえるかということが中心で、対アマゾン政策としてもそこの強化が重要になってくる。
西川 今は、やはりITの活用をフォーカスしている。AIを使ったONE to ONEマーケティング。お客さまの買い物に影響を及ぼすAIの活用は、これからのショッパーマーケティングに欠かせないものになる。過去の購買データや店内の回遊データをAIで分析しそのデータをタブレットカートなど情報発信の技術と組み合わせることで、お客さまの買物をサポートする。潜在的な購買意欲を刺激することで、マーケティング活動を最適化する実験を行っている。これらの技術により、商品によるコミュニケーションの在り方が変化していく。つまり売場のマーケティングの重要なポイントとなり、モノを売るためのコストを売場にシフトすることで無駄なコストが省ける。このようにAIを駆使することで流通の構造そのものを変えていける。
千田 今回、アマゾンに対してどう対応するか、敵対するか傘下に入るかという話をした。トライアルは旗幟鮮明に競合していくという立場を取っている。それが大変なのか、面白い時代だと思って楽しむかで結果は変わってくる。それはトライアルの取り組みを見るとわかるように思う。