ダイヤモンド・リテイルメディア・カンファレンス開催レポート Amazon大競争時代の流通業成長戦略ビジョン AI×IoT×クラウドの進化で加速するデジタルトランスフォーメーション
【特別講演】Retail-AI活用でデジタルトランスフォーメーションに挑戦
~No.1リテールテクノロジーカンパニーをめざして~
株式会社 トライアルホールディングス 取締役副会長グループCIO
西川 晋二 氏
ウォルマートをモデルに全国で日本型スーパーセンターを展開するのがトライアルホールディングス。「ITの力で流通を効率化する」ことを標榜し、自社で日中合わせて300人規模の開発体制を持ち、自社開発のデータ処理・分析・自動発注基盤を活用している。顧客ID付きのPOSデータはすでに11年分約140億件にのぼり、ID-POSデータの分析・活用による品揃えの最適化と売上アップの施策を実施するなど、早くからIT投資と利活用を進めてきた。そして今後は、IoT・AIを活用したデジタルイノベーション戦略をさらに強化していく考えだという。
自社開発のシステム基盤を活用しデータをメーカーにも公開
西川 晋二 氏
流通業の競争が激しくなるなかで、われわれはITを活用した効率化に取り組んできた。その過程で、膨大なデータが蓄積されるようになった。そのデータを活用することが、非常に重要であり、それが勝負の要になると考えている。
当社のデータ活用基盤としては、まず500万人のアクティブ会員があり11年蓄積してきたID-POSデータ、そして自社開発基盤の「e3-SMART」の3つがある。ID-POSデータについては140億件、データ容量にして8テラバイトある。「e3-SMART」はエコノミカル・イネーブリング・エフィシャントの3つのeとスケールアウト、マッシブリーパラレル、アーキテクチャー・オブ・リインベンテッド・テクノロジーズの頭文字を取って命名した。
このデータ活用でめざしたものは流通改革である。メーカーと協同でカテゴリーマネジメントを行う。我々が店舗という面を確保しローコスト運営により販売力を向上する。それに対してカテゴリーキャプテンのクラスター企業は豊富な品揃えとお得な商品という商品力を提供する。そうした役割分担によりWin-Winの関係を構築する。
カテゴリーマネジメント実行のために、カテゴリーキャプテンと当社がお客さまの求めるよりよい品揃えを実現し売上と収益の改善を行う協働の仕組みとして、ウォルマート・リテールリンクに倣ってデータ公開基盤のMD-LINKを提供しており、契約企業は240社に達している。
AI活用による各種分析の自動化をねらう
現状の分析機能は、人が問題を掘り出しに行くかたちとなっている。これをAIにより自動化することを考えている。そこで当社が発起人となり、一般社団法人リテールAI研究会が2017年5月に発足した。多くのメーカーが会員、賛助会員として参加している。
カテゴリーマネジメントにどのようにAIを活用するか。従来活用してきたデータは、POSや棚割、チラシ商材などのほか天候や気温といったところ。今後は、カメラやGPS、各種センサーなどからもデータを収集しAIで分析する。従来の分析結果は各種帳票やBIレポートなどに生かされ、さらに検討を要す場合が多いが、これからは電子棚札、最適化されたインストア・プロモーション、ナビゲーション、プラノグラム(棚割)の変更、店舗レイアウトなどの形で生かされることになる。
カメラ=機械の目を使った管理にもチャレンジしている。その実例として田川店(福岡県田川市)では、店内を3ブロックに分けて合計で40台程度のカメラを設置した。店舗入口での性別・年齢・人数のカウントに活用することで、自動的に性別による分類や年齢による分類、時間帯別の人数などの統計が作成される。カメラを使うことで、購買しなかったお客さまを含めて来店者すべてを対象にした統計が作成できる。
さらに複数台のカメラを連動させ、店内の顧客動線や到達人数分析にも行っている。例えばA店とB店でのヒートマップの違いを知ることで、レイアウトの改善につなげることができる。また、店舗のカテゴリの位置やPOSによる購買人数、売上などを比較することも動線の改善に生かされ、効率的な売場や価値の高い売場の検討が可能になる。また、お客様が棚の前でどのような行動をしているかも把握できる。とくにメーカーにとっては、手にしたけど買わなかった過程なども有用な情報となる。
タブレットを搭載したIoTショッピングカートを導入
さらにデータ活用という点で、出店判断を支援するWebGISを開発しており、出店戦略における新たな取り組みとして、最適候補地を「自動探索」する機能を加えている。
リテールメディアとは、店舗の売場でお客さまとつながる新たなメディアのこと。レシートクーポンを使ったピンポイントマーケティング(PPM)は、従来の全員を対象とした値引きやクーポンの配布ではなく、特定の顧客へコスト効率のよいクーポンサービスに活用するねらいがある。PPMはターゲットマーケティングの手法だが、3つの軸があってカテゴリ新規を取り込むねらい、ブランドスイッチ、リピート購買をねらうなどが基本的な目的となる。これらは手動と人の判断によるところが大きい。これからはターゲット抽出の自動化に取り組まなければならない。
そこで導入したのがタブレットを搭載したIoTショッピングカート。レシートクーポンは買物後にお客様が手にする、それに対してカートに大画面のタブレットを搭載し、買物中にクーポンを配信すればより効果が高いだろうという確信があったし、買物はほぼ店頭で決まるというデータもある。
IoTカートからポイントカードでログインすると、お得な商品を基にしたレシピ提案やパーソナライズされたお得な情報がもらえる。しかも自分がいる売場での情報が自動表示され、商品の棚の位置まで表示される。
将来的にはアプリ開発しスマホでチェックインから決済まで対応
さらに買物の快適さを追求するために、タブレットカートにPOSレジの機能も搭載し春日公園店(福岡県春日市)で実証実験を行っている。手順はプリペイドカードでログインし、買物中にスキャン完了、タブレットカートPOS用チェックアウトレーンでレシートをプリントし支払いが完了するという仕組みでレジ待ちをしなくて済む。
さらに将来的にはスマホのアプリを開発して、スマホをプリペイドカードにしモバイル・ウォレットでログイン、商品をセルフスキャンする。最後に決済レーンを通るというのは現状と同様だ。レシートはスマホに表示するようになる。
IoT・AIの時代となり流通業界も第4次産業革命のなかにあり、大きな変革が間違いなく起きる。アマゾンの台頭に代表されるネット販売の躍進とリアルへの侵攻、顧客の利便性を突き詰める手段、人手不足とコスト競争力の向上からAIの活用は今後、不可避となっていく。