「もっちり食感」の魅力と勢い 外食・中食・内食に広がる需要

文:児玉 一穂(日本食研ホールディングス株式会社 食未来研究室室長)

注目の食トレンド「もっちり食感」「もっちり」という食感が、いま食品業界で大きな注目を集めている。外食・中食・内食のあらゆるチャネルで商品が広がり、SNSでも話題となるなど、その勢いは増すばかりだ。

本稿では、日本人の食文化に根ざした「もっちり」の背景と今後の展望、そして2025年秋に登場する最新の新商品までを三部構成で紹介する。

食感としての「もっちり」人気の背景とは

 日本人は昔から柔らかく、粘りや弾力のある食感を好んできた。代表的なものは米である。日本の食文化を支えてきた米は、炊き上がるとふっくらと柔らかく、しっかりとした粘りを持つ。これが日々の食卓に欠かせない主食として定着し、「もちもち」「もっちり」といった表現が浸透してきた。

 また、そのほかにも日本では「もっちり」食感の定番メニューが多い。お米と同様に主食であるうどん、お餅や団子、大福などの菓子類が代表例である。また近年では、食パンなどでも「もっちり感」が重視されるようになり、家庭食の定番として広がりを見せている。

もっちり イメージ
「もっちり」という食感は、あらゆるチャネルで商品が広がり、SNSでも話題となるなど、その勢いは増すばかりだ(i-stock/Zozulya)

 KSP-POS(食品スーパー)のデータによると、図表①で示すように食パンの訴求ワードとして「しっとり」と「もっちり」を使用した商品の売上は圧倒的に大きく、増加傾向が続いている。実際にPB商品から大手ブランドまで幅広く採用されており、これらは強い購買訴求力を持つワードであるといえるだろう。こうした「もっちり」のようなオノマトペは、食欲を刺激し、購買につながる表現として、日本の食文化において欠かせない存在となっている。

図表①食パンの訴求ワード別売上金額推移

 では、なぜ「もっちり」という言葉がここまで人を惹きつけるのか。その理由は、単なる柔らかさや弾力を示す言葉にとどまらず、しっとり感、口の中での滞在感といった複数のニュアンスを含んでいる点にある。

 消費者にとっては「食べごたえがある」「満足感が持続する」というイメージにもつながりやすく、結果として購入理由になりやすい。メーカーにとっても商品差別化のための表現として活用しやすく、麺類、菓子、パン類など幅広いカテゴリーで「もっちり」を商品名に取り入れた商品が次々と登場している。

 KSP-POS(食品スーパー)において、食品全体(JANコードのついた商品のみ)の中で商品名にオノマトペが入っている商品の売上状況を見てみると、「もっちり」と名付けられた商品の売上金額が最も大きく、前年からの伸長もみられた(図表②)。単なる一過性のキャッチコピーではなく、実際に購買行動につながる力を持つ言葉であることが裏付けられている。

図表②食品のオノマトペ別売上金額と前年比

 こうしてみると、「もっちり」は日本人の食文化に根ざした感覚であり、加えて強い訴求力を持つ表現である。その広がりが実際の商品や市場動向にどのように表れているのか、次章以降で見ていきたい。

「もっちり食感」の最近のトレンド外食・中食・内食の広がり

 「もっちり」は、外食・中食・内食のいずれのチャネルにも波及している。

 まず外食では、ラーメン界において、二郎系の極太で噛みごたえのある「ワシワシ麺」が支持される一方、近年は弾力を感じながらもしなやかな「もっちり麺」を求める声も高まっている。各地の有名店でも中太でもっちりとした麺を看板に掲げるケースが増えており、ラーメン市場の中で新たなトレンドとして定着しつつある。

 中食においては、2025年6月に登場したミスタードーナツの新商品「もっちゅりん」が記憶に新しい。これは“もちもちのその先をめざした新食感ドーナツ”として開発され、発売と同時にSNSで話題化し、販売6日目には品薄の店が目立ち、店舗によっては早期完売となった。行列や購入困難という状況は、消費者の「もっちり」への強い期待を示す指標である。

 フェリカネットワークスのIDレシートデータによると、図表③に示すとおり、4アイテムすべてが2025年6月のミスタードーナツの売上上位10位以内にランクインしている。また、既存の「ポン・デ・リング」との併購買も約2割に上っており、食感の違いを楽しむ消費行動が起こっている。これは「もっちり」訴求のうまさと、既存ブランドの強みを生かした効果的な戦略といえる。

図表③ミスタードーナツさまの 25年6 月の売上ランキング

 内食では、2024年2月発売の乾燥パスタ「オーマイプレミアム もちっとおいしいスパゲッティ」がヒット商品となり、多くの賞を獲得するなど高い評価を受けている。パッケージでは「もちっと」を大きくアピールしており、家庭の食卓の中で「もっちり」を体感する機会を拡げている。

 また、KSP-POS(食品スーパー)によると、図表④で示すように「もっちり」と商品名に入ったチルド麺の売上も好調だ。これらの事例からも、もっちり麺人気が広がっていることがわかるだろう。

 このように「もっちり食感」はチャネルを問わず広がっており、商品のジャンルや形態を超えたトレンドであるといえる。

図表④「もっちり」が商品名についたチルド麺の売上金額推移

「もっちり」を打ち出した2025年秋の新商品

 2025年秋の新商品として、新たに「もっちり」を前面に出した注目商品が発売された。

 明星食品は麺神シリーズを「史上最もっちり食感」と掲げてリニューアル。これまで以上にもっちり感を強めた麺に仕上げており、消費者の満足感は高まるだろう。

 また、日清製粉ウェルナのマ・マーシリーズでは、「もちもち生パスタ」を新たに発売。さらに、手軽さで人気の早ゆでタイプの乾燥パスタも、よりもっちり食感へリニューアルされた。これらはいずれも家庭での食事をより充実させ、「もっちり」を味わう機会を増やしている。

 こうした動きからもわかるように、「もっちり食感」は2025年秋以降も続く確実なトレンドといえる。日本人がもともと好む食感であることに加え、言葉としてのわかりやすさや共感しやすさが、その人気を支えている。外食・中食・内食のすべてで「もっちり」を打ち出す商品が増えており、今後も多様な場面で消費者の支持を集め続けるだろう。

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