お客様満足に向けたデジタル化戦略とイノベーションの促進
加速するオムニチャネル化対応
7月11日に東京で開催されたSAP Formの小売業向けセッションでは、ユナイテッドアローズ事業支援本部 本部長 情報システム部 部長の高田 賢二氏が「お客様満足に向けたデジタル化戦略とITイノベーションの実践」をテーマに講演を行なった。同社のオムニチャネル時代への対応、特に顧客満足度の向上と店舗改革、経営改革をITイノベーションによってどのように進めてきたのか、その取り組みと成果について語った。
ウェート高まるネット経由の商品販売
事業支援本部 本部長 情報システム部 部長
高田 賢二氏
ハーバードビジネスレビューの2012年7月号に「小売業は復活できるか」というタイトルの特集が掲載された。実際にはその前年の「小売業に未来はあるのか」という記事がベースになっており、その中ではすでに“オムニチャネル”という言葉も登場している。記事としては、小売業にとってリアルとデジタルは競合するのではなく相互補完の関係にあるというもので、記事から3年以上を過ぎた現在、グローバルを含めてリアルとデジタルの相互補完の仕組みが出来てきたといえる状況だ。
当社会員のお客様への調査では年間平均購買額は43,000円だが、ブランドサイトや通販サイトを見てから実店舗に行くというお客様は全体の65%、実店舗で商品を見たがその場では買わずに、後日通販サイトで購入するというお客様は全体の76%に達していた。そして重要なことは、実店舗とECサイトの両方で購入するお客様の購買額は、実店舗だけを利用するお客様の2.9倍というデータだ。つまり実店舗と通販サイトの相互補完が売上げ拡大につながるというわけだ。
リアル店舗とオンラインの格差を極小化
ユナイテッドアローズでもオムニチャネル化を加速している。お客様の利便性を高めるためにリアル店舗とオンラインストアの格差を極小化していく姿勢で取り組んでいる。単にオンラインストアを拡大するというのではなく、あくまでもリアル店舗を中心として補完関係を高める方向で臨んできた。
昨年、当社では全社方針として3つのチャレンジ項目を掲げた。その中のひとつに「O2Oリーディングカンパニーへのチャレンジ」を挙げている。そのために組織改革も行い、リアル店舗とオンラインストアの連携強化に取り組んでいる。
現在、ECサイトで商品を販売するだけでなく、自社のオンライストアも活用しており、売上げが伸長して来た。さらにオンラインサイトで購入されたお客様の利便性を高めるという点で、商品を可能な限り翌日配送できるようにした。また欠品を防ぐためにリアル店舗、通販サイト、自社オンラインストアの在庫の共通化も図っている。
ただECサイトでは当社の求めることが実現しにくいのも事実だ。例えば商品画像についても、ECサイトではモデルが着用して顔がない上半身だけ、パンツなら下半身だけというパターンが多い。全身画像でも当社のジャケットを載せながら、ボトムスは他社の製品だったり、ということもある。そこで自社のオンラインサイトではトータルでスタイリングを見せるために全身画像を使用するようにした。もちろん全て当社の商品でコーディネートするようにしている。通販サイトはサイズが合わなかったり、画像と実際の商品のイメージが異なったりといった理由で返品が多い。それを防ぐために希望する商品を希望する店舗で試着できるようにした。店舗でお客様が迷われた時には、店員が商品番号をメモして渡すことも行っている。こうした差別化を図るためにECサイトから自社オンライサイトへのウェートを高めている段階だ。
店舗にはiPadを配布し店頭での商品紹介の利用や、店員にはiPhoneを持たせて他店の在庫情報なども簡単に検索できるようにした。さらに入出庫業務の簡素化、棚卸業務のスピードアップ、会計の迅速化を狙いにRFID導入も進めている。2010年から検討を開始し、ようやく1年ほど前から導入を開始しているがRFIDについてはまだ工夫が必要だと感じているところだ。
モバイル、ソーシャル、オムニチャネルが世界の潮流
小売業にもITイノベーションが求められている。お客様1人1人に合ったサービスをどう提供していくか、その実現のためにIT利活用は不可欠である。店頭ではデジタル化されていない要素が、まだたくさんある。当社もオムニチャネル化を進めているが、店舗改革、経営改革にもITイノベーションは重要になる。それによりお客様の利便性向上、満足度の向上を図ることが可能になる。ITというとインターネットの世界と思われがちだが、生まれた時にはインターネットが存在していたミレニアム世代と呼ばれる人たちは、実はリアル店舗は楽しいと感じ、リアル店舗への関心を高めている。今年の全米小売業協会総会での大きなトピックスはモバイル、ソーシャル、オムニチャネルだった。すでにITイノベーションは世界の潮流となっている。