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データで見る流通
太りゆく男性とやせゆく女性

文=久我尚子

ニッセイ基礎研究所
生活研究部 主任研究員

 

 新年を迎えてジョギングでもはじめてみようか、と思い立った方も多いのではないだろうか。近年のマラソンブームやスマートウォッチの人気、自然食品やオーガニック食品も珍しいものではなくなり、多方面から健康関連市場が活気づいている。健康志向が消費者全体で高まるなか、あらためて日本人の健康に関するデータを見ていきたい。

 

 まず、BMI(体重と身長の関係から人の肥満度を示す体格指数)の推移を見ると、25.0以上の「肥満」の割合は、成人男性ではすべての年代で上昇傾向、あるいは高めの値となっており、横ばいで推移している(図表)。一方、女性では20代はやや上昇しているものの、30代は横ばい、40代以上は低下傾向にある。BMIが18.5未満の「やせ」の割合は、男性では20代を除く全年代で低下しているが、女性では20~50代で上昇、60代では横ばいで推移している。つまり、男性では「肥満」が増え「やせ」が減っているが、女性では「肥満」が減り「やせ」が増えており、男性は太りゆく一方、女性はやせゆく様子が読み取れる。

 

図表●BMI25.0以上(肥満)の割合の推移 出典:厚生労働省「国民健康・栄養調査」より筆者作成

 

 女性ではとくに40~50代で「肥満」が減り「やせ」が増えている。若い頃のスタイル維持に励む「美魔女」の存在がうかがえる。また、男性では20代でのみ「やせ」が増えている。最近ではスキンケアや脱毛、ネイルなどに励み、女性と同等か、それ以上に美意識の高い男性を「美容男子」と呼ぶそうだ。

 

 体格は食事の影響も大きい。厚生労働省「国民健康・栄養調査」によると、国民全体で1日の摂取カロリーは減っているが脂肪エネルギー比率は増えている(2000年と2015年の比較)。摂取カロリーの減少は30~50代で大きく、男性は約100kcal、女性は約130kcal減少している。一方、脂肪エネルギー比率の上昇は40代以上で比較的大きい。

 

 中高年を中心に脂肪分の多い食事へと変化しており、背景には食生活の洋風化などがあるのだろう。なお、運動習慣や歩数は、70歳以上では増えているが、ほかの年代では変わらない。中高年男性で「肥満」が増えた原因には食生活の洋風化の影響がありそうだ。一方、女性でも同様の食事変化はあるが、「肥満」は逆に減っている。女性は男性と比べて摂取カロリーの減少幅がやや大きいことに加えて、食生活における知識の豊富さも影響しているのかもしれない。肥満には摂取カロリーだけでなく、食事のバランスやタイミングも影響する。若い頃からダイエット意識が芽生えがちな女性にとっては、就寝前の飲食やドカ食いはNGといったことは常識でも、男性にはさほど知られていないのかもしれない。

 

 消費者全体で健康志向が高まっているが、中高年男性は肥満の改善、中高年女性はアンチエイジング、若い男性は美意識など、それぞれの背景は異なるようだ。消費者の困りごとには新たな商機が隠れている。多様化するライフスタイルの背景にあるものを一つひとつ解きほぐすことで、新たな消費機会が生まれる。

 

(「ダイヤモンド・チェーンストア」2018年2/1号)