文=平賀 充記
ツナグ働き方研究所 所長
昨今、「働き方改革」がブームとなっている。長時間の残業を押し付けたり、辞めたいという従業員を不当につなぎとめたりする「ブラックバイト」が問題視されるようになり、各業界・各業種でアルバイトの長時間労働の見直しが行われている。
このような「時短」への取り組みは、実際にアルバイトの採用や定着につながっているのだろうか。ツナグ働き方研究所では、「オフィスワークではない」労働環境での10~60代までのアルバイト就業者200人を対象としたアンケート調査「アルバイト労働時間実態調査」を実施している。
図表は、同調査のなかでアルバイトの労働時間の「理想」と「現実」について尋ねた設問から得た結果をまとめたものだ。それによると、アルバイトの理想の1カ月当たり勤務日数は平均で17日、1日当たりの勤務時間は平均5.8時間。一方、現実の1カ月当たり勤務日数は平均16.7日、1日当たり勤務時間は平均5.5時間となっており、いずれも現実が理想よりも少なくなっている。
1カ月当たりの労働時間(平均)を見ると、理想が98.3時間であるのに対して現実は91.3時間と、現実が理想よりも7時間少ない。現実と理想に大きな乖離がないどころか、むしろ、労働時間の短さに不満を抱えているアルバイトがいることさえ考えられるのである。実際に、筆者が学生アルバイトを対象に行ったインタビューでは「もっと働きたい」という意見が多く、なかには「シフト1回での勤務が8時間を超えるのを禁止されている」という声もあった。
アルバイトの労働時間の短縮を推し進める企業が増えている一方で、現場が人手不足であることに変わりはない。労働意欲が高いアルバイトがいるにもかかわらず、不足した労働力を残業代のない「みなし労働」をすることで補う店長も増えている。その結果、店舗運営や職場のマネジメントが手薄になり、アルバイトの採用や定着ができなくなってしまうという負のスパイラルに陥っているケースも多い。
つまり、昨今の時短ブームによってアルバイトに対して“過保護”になってしまった企業側と、「もっと働きたい」という希望を持ったアルバイト側とでギャップが生じているのである。
企業側にとって重要なのは、「アルバイトを辞めさせないこと」だ。人口減少や少子高齢化を背景に、現在は求人数が求職者数を大幅に上回る「超売り手市場」となっている。「辞めたら新しい人を採用すればいい」という時代は終わりつつある。
企業は今後、アルバイトをきちんとシフトに組み込み、十分に働ける環境を提供する必要がある。接客やレジ打ち、商品陳列などのアルバイトが担当する業務の多くは、勤続年月が長くなればなるほど習熟度が上がるため、定着に成功すれば生産性の向上も見込めるだろう。
また、勤続が長いアルバイトには、社員がやるような責任のある仕事の一部を任せることで、店長の負荷を軽減することができる。なにより期待をかけて任せることで、アルバイト自身がやりがいを感じ、活躍人材へと成長してくれるはずだ。アルバイトが主戦力である小売業こそ、時短に頼らない働き方改革に挑戦していく必要がありそうだ。
(「ダイヤモンド・チェーンストア」2017年11/15号)