データで見る流通
「牛肉ファン」の実態、シニア世代に消費拡大の余地あり
文=稲垣 昌宏
ホットペッパーグルメ外食総研
ホットペッパーグルメリサーチセンター
センター長
肉ブームと言われて久しいが、いまなお、グルメ情報サイト『ホットペッパーグルメ』のフリーワード検索において、「肉」や「牛肉」などは人気の入力キーワードとして上位にあがってくる。
そこで、ホットペッパーグルメ外食総研では、2016年9~10月に、牛肉や牛肉料理の嗜好について、首都圏・関西圏・東海圏の消費者約1万人にWebアンケート調査を行った。
まずは「牛肉」が好きかどうかを尋ねたところ、「好き」「まあ好き」の合計は全体の54.2%と過半数を占め、「嫌い」「あまり好きではない」の合計は6.5%と少数派であった(図表1)。
世代別では、20代男女を筆頭に若い世代ほど牛肉好きが多い傾向が見られた。逆に「嫌い」は男女とも50代で最も多く、60代ではやや減る傾向であった。圏域別では、関西圏で「好き」「まあ好き」の合計が56.3%と3圏域中最も多かった。
次に、1年前と比べての牛肉に対する好みの変化を聞いたところ「より好きになった」「やや好きになった」の合計は全体の33.8%、「好きではなくなった」「やや好きではなくなった」の合計は8.6%と、牛肉を好きになっている人が多いこともわかった(図表2)。
世代別では、若い世代で「より好きになった」「やや好きになった」という回答が多い。注目したい点は、50代と60代での比較だ。60代の方がスコアは高い。
圏域別では、関西圏が3圏域中最多となり、36.5%が1年前より牛肉が「より好きになった」「やや好きになった」と回答した。
厚生労働省が公表した13年の「国民健康・栄養調査」によると、肉類の摂取量は15~19歳をピークに、上の世代ほど減少する。一方増加率の面では、03年と比較して、60代は34%増、70代は39%増と、逆に上の世代で高くなっている。
牛肉をめぐっては、近年2つの大きな転換期があった。1つは1991年の米国産牛肉の輸入数量制限の撤廃で、もう1つは日本で2001年に初めて確認された牛海綿状脳症(BSE)だ。
1991年以降の日本ではそれまで高級品だった牛肉が一般的な食材となったが、10年後の2001年には再び品薄になり、牛丼専門店が豚肉を使用したメニューに切り替えたり、牛タンの価格が高騰したりと、牛肉を取り巻く環境が変化し消費量が落ち込んだ。
その後、安全性を担保して輸入が再開されて今の牛肉ブームにつながっているわけであるが、注目したいのは前述のシニア層での消費量の増加である。今回の調査結果でも、50代より60代で1年前より牛肉が好きになったとの回答が多かった。
1991年時点では、いまの60代は30代の働き盛り。現役時代に、安い輸入牛肉が一般食材化した世代が、現在の人口構成でも消費額でも影響力の大きな層となっている。
このところブームの「熟成肉」「ローストビーフ」などは、いずれも脂の量より、うま味を重視している。近年の牛肉ブームに関しては、牛肉に慣れ親しんで年を重ねたシニアが、自分の年齢に合った楽しみ方を模索していることと無縁ではないだろう。
牛肉の消費を伸ばすには、若い世代をつかむだけでけでなく、伸びしろが大きなシニア世代が喜ぶ料理方法や提供方法をいかに提案していけるかも重要なポイントだといえそうだ。
(「ダイヤモンド・チェーンストア」2016年12/15,2017年1/1合併号)