データで見る流通
小売業での女性活躍の現状と働き方改革
文=神尾篤史
大和総研 パブリック・ポリシー・チーム 研究員
人手不足が深刻化するなか、企業間で優秀な人材の獲得競争が繰り広げられている。小売業でも例外ではない。雇用者の過不足状況を示す日銀短観(2016年9月調査)の小売業の雇用人員判断DI(過剰と回答した企業の割合から不足と回答した企業の割合を差し引いた値)は、現行基準になってから過去最低のマイナス25と、人手不足が顕著である。雇用者全体の61%が女性である小売業(総務省「労働力調査」)では、女性が活躍できる環境の整備が必要不可欠である。
15年8月に成立した女性活躍推進法は、法律という強制性を伴う積極的な方法で女性活躍を進めていくことを目的としている。同法は労働者が301人以上の企業に対して、自社の女性活躍の状況を把握・課題分析したうえで、行動計画を策定・公表・実施し、効果を測定するよう求めている(従業員300人以下の企業は努力義務)。加えて、採用、継続就業・働き方、評価・登用などの面における、自社の女性活躍に関する情報の公表も求めている。
各社の行動計画と女性活躍に関する情報は、厚生労働省の関連サイト「女性の活躍推進企業データベース」などで公表されており、誰でも容易に関心のある企業の情報を入手することが可能である。企業における女性活躍の推進状況が「見える化」されることは、職探しをしている女性や取引先などにとって企業の現状を知る重要な目安の一つとなる。各社にとっては、同業他社はもちろん、異業種とも比較されることになり、自社の就労環境に問題があれば改善を促されることになるだろう。
図は、「女性の活躍推進企業データベース」上で公表された女性活躍に関する情報を、小売業と全業種とで比べたものである。小売業では女性の育児休業取得率は全業種平均より高く、労働者の平均残業時間は短いが、その他の項目は好ましい状況とは言えず、とくに年次有給休暇取得率は全体を大きく下回っている。
コンビニエンスストア、食品スーパー、百貨店などの小売業は営業日数が多いという業態の特性があるにせよ、それは有給休暇取得率が低くてもよいという理由にはならない。性別を問わず有給休暇の取得率を社会全体で向上させていけば、男性の働く時間を家事や育児にシフトさせることも可能となり、女性が働きやすくなることにもつながるだろう。
では、有給休暇取得率が低い小売業ではどのような行動計画を掲げているだろうか。有給休暇取得率が20%未満の小売業18社の行動計画を見てみると、そもそも休暇取得の促進を掲げる企業は5社だけであった。
それぞれの企業が抱える課題はさまざまであり、また女性活躍をどのように進めるかは経営判断である。しかし、生産年齢人口が減少を続け、人手不足が深刻さを増すなかでは、企業は労働者から選ばれる存在になる必要がある。労働環境の整備において、自社が他社や他業種より際立って遅れている部分があるとしたら、それを改善していくことが重要な人材戦略となるだろう。
(「ダイヤモンド・チェーンストア」2016年11/15号)