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データで見る流通
改正酒税法で価格競争の緩和は進むのか?

文=原田 三寛

東京商工リサーチ
情報本部情報部 部長

 

 2016年5月27日、改正酒税法が成立した。免許制度が存在する酒類小売業は1998年以降、需給調整規制を段階的に緩和し、量販店の新規参入を促してきた。ところが、今回の法改正では財務大臣が価格設定に関する「公正な取引の基準」を定め、違反した業者の販売免許を取り消すことも可能になった。これは「町の小さな酒屋さん」の救済がねらいとはいえ、規制緩和の象徴であり、消費者に支持されてきた酒類の安売り商法に待ったをかけることにもなりかねない。

 

 東京商工リサーチの調査では、2015年1~12月の「酒類小売業」の倒産は44件(前年36件)、負債総額は50億2800万円(同27億7500万円)だった(図表1)。負債総額は、15年4月に三田村酒店(個人企業、福井県)と関連会社の寿喜娘酒造(福井県)が福井地裁に負債14億7700万円(保証債務含む)を抱えて破産を申請したことで大幅に膨らんだ。

 

 

 また、倒産に集計されないが休廃業・解散は倒産の約4倍の163件(15年)に達し、12年から4年連続で増加している(図表2)。

 

 

 国税庁によると、酒類販売数量は1994年度の964万2000キロリットルをピークに右肩下がりで推移し、2014年度は833万1000キロリットルにまで減少した。国内人口の減少や高齢化の進行、若者の酒離れなどが背景にあるとみられる。

 

 この間、政府は03年に「酒類小売業者の経営改善などに関する緊急措置法」を制定、酒類小売業者の転廃業を支援してきた。これを裏付けるように酒類小売免許場の業態別構成比率は、一般酒販店が1995年度の78.8%から2013年度は31.3%へと激減する一方、コンビニエンスストア(CVS)は11.8%から32.6%へと3倍近い伸びをみせるなど、酒類販売の現場はこの20年で大きく様変わりした。

 

 15年4月に負債1億3400万円を抱え、東京地裁から破産開始決定を受けたマックコーポレーション(さいたま市)は、店頭小売や業務用販売で事業を拡大し、1990年頃の売上高は約40億円を計上していた。しかし、価格競争に巻き込まれて利益が落ち込み、店舗閉鎖などリストラ策も経営改善には結びつかなかった。

 

 前述の三田村酒店、マックコーポレーションは「町の小さな酒屋さん」ではない。倒産を負債額別でみると、負債1億円以上は2014年の3件から、15年は8件に増えている。苦境に陥っているのは小・零細規模の「町の小さな酒屋さん」だけではないことを示している。

 

 16年1~7月の酒小売業の倒産は16件(前年同期34件)、負債合計も6億6100万円(同34億5800万円)で、前年同期に比べ大幅に減少している。今回の酒税法改正で経営規模の大きいディスカウント店や量販店の安売り商法には逆風が強まることになる。だが、大型店の安売り規制は、食品スーパーをしのぐ利便性を提供しているCVSの定価販売を後押しする可能性がある。価格競争の緩和で「町の小さな酒屋さん」救済を主目的にした法改正が、むしろ競争激化を招くトリガー(引き金)にもなりかねない。

 

 消費者は価格、味、品揃えのどれを求めているのか。緻密なマーケットの調査を行ったうえで、店頭において販促しないと消費者からそっぽを向かれてしまうかもしれない。そういう意味で今回の法改正は、規模に関係なくビジネスの基本に立ち戻ることを促すきっかけと受け取るべきだろう。

 

(「ダイヤモンド・チェーンストア」2016年9/15号)