文=平石 康久
農畜産業振興機構 調査情報部 国際調査グループ
米国での野菜販売における重要なトレンドとして、有機野菜やパックドサラダ(そのままでも食べられるようにカットされた野菜を集めたサラダ)が挙げられる。米国の多くの量販店で有機野菜が販売され、さまざまなカット野菜製品が販売スペースを占めるまでになっている。
米国農務省経済調査局によれば、有機食品の販売額は2005年の133億ドル(1兆6226億円、1ドル=122円で換算)から、14年には348億ドル(4兆2456億円)に拡大(図表1)。食品販売額全体の4%以上を占めると予想されている。
このうち、青果物(野菜および果物の合計)は毎年販売額が増加しており、14年の販売額が全体の43%の151億ドル(1兆8422億円)と有機食品の中で最も売上高構成比率の高いアイテムとなっている。
有機野菜を購入することの多い消費者像を明らかにしようと各種研究が行われているが、研究によって正反対の結果が出るなどその消費者像は明らかにされていない。これは、食品安全、環境保護、家族の健康、高品質、地域への貢献といった有機野菜に対して消費者が期待するさまざまなイメージを、有機野菜というカテゴリーが幅広く吸収しているためと思われる。
また、ファーマーズマーケットや自然食品の専門店だけでなく、大手食品会社が取り扱いを開始するなどして量販店などに販売チャネルがシフトし、消費者がより有機野菜を入手しやすくなったことも有機野菜の消費が増加した背景にあると見られる。
一方、カット野菜の販売も増加している。米国の量販店で販売される野菜のうち、パックドサラダが最大の販売品目となっており、料理のレシピに合わせてミックスされた調理用野菜も上位に入る(図表2)。
これらの商品は、販売数が増加していることから他の野菜と比較して販売金額の伸びが大きい。また、この統計に含まれないが、鶏肉などをトッピングしてそのまま主菜となるように調理されたサラダや、電子レンジにかけるだけで温かい料理が完成する冷凍野菜製品の販売も盛んである。
この背景としては、女性の社会進出が進むなど、米国の消費者が食品に対して利便性、簡便性を求めていることがある。以前は外食産業がその需要を取り込んでいたが、リーマンショック後に起きた景気後退などで消費者の節約志向が高まったこと、また、外食産業に対抗するかたちで、小売業界が「食材の提供」から「食事の提供」(調理の手間も併せて売る)へと重点をシフトさせていることが、カット野菜や調理済み野菜などの販売が伸びている原因として考えられる。
米国の量販店では、こうした有機野菜やカット野菜を充実させることによって他店との差別化を図っており、今後もこういった有機野菜やカット野菜の取り扱いは増加していくものと考えられる。
注:この記事で示された見解は、筆者の個人によるものであり、所属する組織の見解を示すものではありません。
(「ダイヤモンド・チェーンストア」2015年12/1号)