文=稲葉 光亮
アサツー ディ・ケイ ストラテジック・プランニング本部「アラ☆ダン研究所」
アサツー ディ・ケイ(東京都/植野伸一社長)は、社内に「アラ☆ダン研究所」を設置し、60代を中心としたシニア層へのマーケティングのサポートを行っている(「アラ☆ダン」=「アラウンド団塊世代」の意味)。「ADK生活者総合調査2014」の結果から、60代シニア層の健康意識にフォーカスしてみたい。
まず、「健康への自信度」を測ると、20代から50代までの平均が男性24.0%、女性23.4%なのに対し、60代では男性28.5%、女性28.1%と、いずれもその平均を上回った。高齢になって心身の不調や悩みも生じるはずの彼らが、なぜ「自信がある」と言えるのだろうか?
彼ら60代シニア層の健康意識を見るとその背景がうかがえる。前項で測定した「健康に自信がある」と答えた人だけを抜き出して、彼らの健康に対する意識を問うたのが図表である。同じ「健康に自信あり」と思う人においても、60代シニア層は、彼らより若い層(20~59歳/「健康に自信あり」と答えた人)を多くの項目で上回っている。
なかでも「ストレスをためないようにしている」、「日頃からできるだけ体を動かすようにしている」、「健康維持・向上の為に、運動や食事等に気をつけている」、「健康は薬や栄養剤等より天然・自然の食べ物で維持する」などの8項目は差が顕著である。
このように60代シニア層は「運動」「食事」「ストレスをためない」という三拍子を揃えて継続できていることが、若い層を凌ぐ「健康への自信度」につながっているようだ。
これに呼応するように、同じ調査で「食生活で重視すること」を問うと(複数回答)、60代で第一に挙がったのは「体や健康によいこと」である(60代男性・女性とも83.6%)。これは2位「安全性」(60代男性68.4%、同女性68.5%)や3位「味へのこだわり」(同41.5%、47.9%)を大きく引き離しており、食生活と健康維持の結びつきの強さを如実に語っている。
なお、「アラ☆ダン研究所」が60代シニア層の夕食実態を追跡調査したところ、送られてきた食卓の写真には例外なく数品の小皿や小鉢が並んでいた。飲酒との関わりを見るために「晩酌」に限定したため、メニューはつまみ中心になっていたが、自家製の焼き鳥や豆腐料理もあれば、食品スーパーやコンビニエンスストアの総菜も散見され、販売容器のままのおでんやお好み焼きが並ぶケースもあった。ここに「(お手軽)合理的消費行動」も確認できるが、注目されるのはそのメニュー構成である。
たとえば天ぷらが全部野菜だったり、鍋物も牡蠣と野菜、自分で串を打った鶏肉やシイタケのように、種類や量が豊富な中で、彼らなりに健康を意識したメニューに何とか仕上げようという「努力の跡」が、楽しい晩酌の場にも見受けられた。しかも、決してそれをストイックにやってはいないということが写真に付されたコメントからうかがえた。ストレスを増やさないことは前述のとおり健康維持の大事な要素で、整合性が取れている。
60代シニア層は「健康につながる食事」をどの年齢層よりも大事にし、かつ楽しく実践している。彼らが自分の好みの1品を売場で求める機会を考えるとき、小売業は素材の選択や味つけ、商品のポーションやパッケージの彩りに至るまで、さまざまな工夫を試して彼らに問うことで、新たなマーケット創出が可能になるかもしれない。
(「ダイヤモンド・チェーンストア」2015年5/15号)