アマゾンに勝つ! コープさっぽろの成長戦略
生活協同組合コープさっぽろ
理事長
大見 英明 氏
生活協同組合コープさっぽろ(以下、コープさっぽろ)は人口減少がいち早く進む北海道において、“打倒アマゾン”を掲げて、先行的に物流基盤を築き、利用を大きく伸ばしている注目の生協だ。なぜ業態を越えた競争が激化するなか、コープさっぽろは競争優位性を発揮できているのか。今後はどのように成長を図っていくのか。大見英明理事長にお話を聞いた。
「ポツンと一軒家」にも1時間30分以内に宅配
コープさっぽろは1998年に経営破綻して以来、事業再建途上にある。最高益を記録したのは、2020年のコロナ禍。店舗1913億円、宅配1086億円を売り上げた。売上伸長の原動力は、宅配事業だった。北海道は毎年人口が6-7万人減少する過疎先端地域だが、北海道エリアの7割がコープさっぽろの組合員であり、45万世帯に宅配を行なっている。
コープさっぽろは1965年、店舗運営をスタートさせた。宅配は1981年から月に一度の共同購入としてスタートした「後発事業」である。その後、全道の生協が統合し規模が拡大したことにより2006年、現在の「宅配システム トドック(以下、「トドック」)」に名称変更し、サービスを開始した。
「トドック」は導入以来、供給高と登録人数が右肩上がりに推移。現在は45万世帯(北海道の総世帯の6軒に1軒)が利用している計算になる。現在50ヶ所の宅配センターで全道をカバーし、低コストで北海道の隅々まで配達するインフラを整備。約1300台の車両が稼働し、センターからほぼ片道一時間半以内で配達でいる環境ができた。北海道で最もシェア率が高いのは、ホタテで有名な猿払村だ。総世帯の4割が、「トドック」で生活を賄っており、「ポツンと一軒家」のような過疎地帯に圧倒的に強いのが特徴だ。
これからの日本は、人口減少の一途を辿り、北海道もまた過疎地域に買い物難民が続々増えていくことが予測できる。コープさっぽろは北海道内のマーケットを支えながら、事業を拡大していく意向だ。
「玄関に一番近い場所」に届ける
自宅へ商品を運ぶ通信業界の用語である「ラストワンマイル」を制するものが流通を制する、と我々は考えている。まさにアマゾンに代表されるように、“玄関に一番近い場所”にお届けする事業態が間違いなく先端になってきている。私はいかなる場合も、現場調査から学びを得るという姿勢を貫いており、日本の流通を揺るがしかねない、いわゆる「アマゾンエフェクト」の文脈で語るならば、2014年、アマゾンの小田原センターを見学させていただいた経緯がある。3000坪5階建ての巨大センターを観察して気づいたのは、便利さゆえの「アマゾンの弱み」だった。注文した当日から翌日に届くといった発注の即時性は当然ながらアマゾンの強みだ。しかし、その即時性により「パッといつでも買える」ことから、発注の85%が「商品1個」に限定されるという弱みに転換されていることがわかった。配送コストを下げるならまとめ買いをしてもらった方がありがたいが、それ以前に2016年頃のアマゾンは再配達によりドライバーの労働時間が拡大しているという問題も浮き彫りとなった。
アマゾンより強い。トドックの優位性
その点、「トドック」は毎週12-13点を届けている。置き配サービスを早くから取り入れ、再配送はゼロ、盗難もゼロという実績がある。1週間前発注で在庫をもたない仕組みを構築し、「まとめて週に1回定時配達」の方がサステナビリティであり、冷凍・冷蔵・常温の3パターンで供給しているため高い水準で品質管理が可能だ。1日1台80軒コース配送による物流の最適化を実現して、2016年からは配送担当者は固定化運用しているため、「いつものAさんがいつもの時間に配達してくれる」という安心感があり、「トドック」にAEDを乗せることで、高齢者の見守りを週に一度のペースで行える。こうした訪問対応は競争優位に働くはずだ。コープさっぽろであれば「アマゾンに勝てるぞ」と勝算を感じ、ますます宅配を強化している。
組合員との情報接点は?
とはいえ、アマゾン事業成長率は継続的に高くショッピングセンターに限らず生鮮品など幅広い業態に脅威であることは変わらない。
組合員との情報接点を考えた時に、コープさっぽろは生活情報カタログ『週間トドック』を配布。季節に合わせた食卓メニューを中心の提案し、毎週、約3,000点の商品を掲載。店舗では、さまざまな商品を手にとってじっくり見る機会はそうないが、『週間トドック』はP1から順番に“読む”という特性がある。また広報誌『Cho-co-tto(ちょこっと)』を月一で60万部配布。商品が開発された背景、生産方法など読み物としてしっかり情報を届ける。
また、読んで楽しいカタログをコンセプトに、宅配季刊カタログの展開をスタート。リアルなカタログで家庭に保存されるのが鍵で値付けの際はアマゾンプライムの価格を下回るよう注力している。カタログは単なる「商品リスト」ではなく「北海道の生活文化向上に寄与する媒体」になること。なお、2022年、完全アプリ化を目指し、今後、広報宣伝費は低減化する見通しだ。
北海道の食のインフラを目指す
また、2022年春に開始したのは良品計画との協業だ。道内ほぼ全域の「トドック」利用者が無印良品の商品を購入できるようになり、送料は無料。「トドック」はさまざまな施策をおこない人口減少社会で優位性と社会的役割を発揮する。買い物難民問題を継続的に解決し北海道食のインフラになることを今後も目指していく。