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カスミ、身だしなみ基準の緩和がもたらした「意外な効果」とは?

ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(東京都/藤田元宏社長)傘下のカスミ(茨城県/塚田英明社長)は2024年8月、従業員の身だしなみ基準を改定し、髪色や髪型、アクセサリーなどに関するルールを緩和した。小売業界全体で、こうした身だしなみ基準緩和の動きが広がる中、カスミの具体的な取り組みと現状の成果についてレポートする。

従業員の個性を尊重し、身だしなみ基準を緩和

 カスミは2481日、身だしなみ基準の一部を緩和した。同社は、昨今の多様化する社会や労働環境に対応し、従業員が自分らしく働ける職場環境づくりをめざしている。今回の基準緩和は、春の団体交渉で組合から提案されたことが契機となった。

 カスミの従業員の年齢層は高校生から75歳まで幅広く、社内には多様な価値観が存在する。こうした個性を尊重することで、同社は従業員が活気を持って働き、店内の雰囲気づくりにつながることを期待している。

 執行役員人事総務管理本部人事戦略部マネジャーの渡邊敏幸氏は、「(身だしなみ基準の緩和は)採用の厳しさも背景にあるが、カスミの場合はそれが主因ではない。従業員一人ひとりの多様な価値観に寄り添い、働きやすい職場環境を提供することが今回の緩和の目的だ」と語る。

身だしなみ基準の内容と策定に至るまでの考え方

 カスミでは身だしなみについて、以下の2点を基本方針としている。

 従来は、髪型であれば各店舗に髪色のサンプルを置き、髪色はそれに合わせるよう管理していた。男性従業員は髪が耳にかかるのは不可とされ、ひげは剃ることを求められていた。男女ともにピアスの着用は禁止されていた。

 今回の身だしなみ基準の緩和により、髪の毛については、髪型や長さ、色、ヘアアクセサリーは個人の自由となった。ただし、髪が肩にかかる場合は束ねることが求められ、お客に表情が見える配慮が必要となる。

 ひげは整えてあれば問題なく、爪については付け爪や装飾は不可としているが、マニキュアは可能だ。また、アクセサリー類について耳のピアス、指輪、ネックレス、ブレスレット、カラーコンタクトの着用は可能だが、イヤリングやぶら下がるタイプのピアスは不可としている。

 なお、一部の食品製造を担う部門(鮮魚、インストア精肉、青果、デリカ、ベーカリー、カフェなど)は、衛生管理上の観点や異物混入を防ぐ目的で、マニキュア、ピアス、指輪、ブレスレットの着用は不可としている。

実際に現場で働くベーカリー担当の従業員

 部門によって爪やアクセサリーは制限があるが、髪の毛やひげはどの部門でも自由となっている。今回の基準緩和は、性別を問わず同一のルールが適用されている。ちなみに、タトゥーについては規定しておらず、お客から見えなければ問題ないとされている。

 今回の基準は「食の安全性」「お客さまからの親近感」「作業効率への影響」「多様な価値観の尊重」「働きがいにつながる」の5つのポイントに基づいている。基準を決める際は、他社基準を持ち込まずゼロベースで検討し、個人の主観に偏らないことに重点を置いたという。

 

基準緩和が従業員の身だしなみ意識の向上に寄与

 身だしなみ基準の緩和後、従業員からは「髪型が自由になり、仕事へのモチベーションが高まった」「ほかの従業員とのコミュニケーションが増えた」「ヘアスタイルをきっかけにお客さまから声をかけていただく機会が増え、接客が楽しくなった」といったポジティブな意見が寄せられている。また、60歳以上の従業員からは「入社時に禁止されていたピアスをようやく開けられる」といった声もあったという。

 一方、社内では基準緩和によりお客からのクレームが増えるのではないかと懸念する声もあがっていたが、実際に緩和を実施すると、予想に反してネガティブな反応はなかった。

 渡邊氏は「今のお客さまは、個性や多様な価値観の尊重は当然のことととらえており、違和感なく受け入れられた」と、その理由について語る。

執行役員人事総務管理本部人事戦略部マネジャーの渡邊敏幸氏

 さらに意外な成果として、髪型が自由になったことで「かえって身だしなみに対する意識が高まり、より自覚を持って身だしなみを整えるようになった」という従業員の声もあり、基準緩和が身だしなみ意識の向上につながったという。

多様性を生かした職場づくりへの取り組み

 カスミでは17年以降、ベトナムから100人以上の技能実習生を受け入れている。さらに、つくば地区を中心に全店で約200名の留学生が働いている。

 「多国籍で多様な文化背景を持つ従業員の中には、宗教上の理由でひげを剃れない人もいる。今回、身だしなみ基準の緩和ができたのはよかった」と渡邊氏は語る。今後も外国人従業員の増加を見越して、国籍や宗教への配慮を含めた基準の整備を視野に入れる。

 同社では身だしなみの緩和以外でも、個々の特技や意欲を自己申告できる「ポジティブカード」制度や、動画研修の整備なども実施し、働きがいの向上を図っている。

 今回の身だしなみ基準の緩和は、従業員の多様性を生かし、個々が主体的に働ける職場環境づくりの一環である。具体的な数値面での成果などはまだ表出していないが、それぞれが持つ個性を尊重し生かすことで、よりよい商品やサービス提供につなげていきたい考えだ。