競合少ない”スキマ価格帯”で成長! D2C家具ブランド「KANADEMONO」の次の一手

取材:阿波 岳 (ダイヤモンド・チェーンストア 編集記者)

中価格帯に特化した戦略で高リピート率を実現

 高い利益率の背景にはもう一つ、戦略的な価格帯設定がある。同社は、家具市場の中で競合他社の少ない中価格帯に特化している。いわゆる高級家具ブランドは多数存在するものの、ファッションブランドのような圧倒的な認知度があるわけではなく、50万円を超えるソファーを気軽に購入できる消費者層は限られている。一方で、「10万円前後であれば購入を検討しやすいという消費者は多い」と石川氏は語る。

KANADEMONOカンパニーの石川森生代表

 「高価格帯と低価格帯の間にあるニーズはかなり大きい。そこに応えられるブランドが意外と日本には存在していない。私たちは最初から“その隙間”を意識して戦略を組み立ててきた」(石川氏)。

 この中価格帯戦略が奏功し、KANADEMONOは家具業界では異例ともいえる高いリピート率を実現している。家具は耐用年数が長いため、一般的にはリピートにつながりにくいとされるが、同社では法人・個人含めた全体でリピート率は4割を超える水準を維持している。

 その背景には、既存顧客との関係構築を重視したマーケティング施策がある。具体的には、購入後の顧客に向けて継続的に製品情報や活用アイデアを発信し、ブランドへの共感や理解を深めることで再購入につなげる仕組みを構築している。「新規獲得の獲得よりも既存顧客のLTV(顧客生涯価値)を最大化することで、収益性を持続的に高めていく」と石川氏は語る。

法人顧客に特化したサービス「SITURAEMON

 さらなる成長を見据え、石川氏が新たに立ち上げたプロジェクトが「SITURAEMON」だ。これは、法人顧客を対象とした造作家具のオーダーメイド製造・供給サービスで、KANADEMONOがこれまで培ってきたデザイン力と生産体制を生かし、OEM形式で展開する新規事業である。

 造作家具とは、空間の寸法や用途に合わせて設計・製作される、建物と一体化するようなオーダーメイド家具を指す。そのため、既製品では対応しきれない細かなニーズに対応できる。

 SITURAEMONは、特注サイズや天板素材の変更、配線孔の追加など、セミオーダー形式で仕様のカスタマイズに柔軟に対応できる「スマート造作家具」システムを採用。これにより、オーダーメイドの自由度を維持しながら、最短5営業日出荷という短納期とコストの最適化を実現している。さらに、卸売価格での提供やOEMによる完全オーダーメイドへの対応に加え、他社製品も含め、空間全体のコーディネート提案を手がけ、法人顧客の多様な要望にきめ細かく応えている。

SITURAEMONのロゴ

 SNS活用でファンを増やしてきた同社だが、「SITURAEMON」ではオフラインを含めた営業活動にも力を入れ始めている。その一環として、法人向け予約制ショールームを用意しており、「東京ショールーム」(東京都目黒区)と「大阪ショールーム」(大阪府大阪市)を展開する。

KANADEMONOのショールーム

 今後、法人顧客が増えることで、その企業の社員がKANADEMONOの家具に触れる機会も増え、個人顧客としての購入につながるケースが増えると石川氏は見ている。法人向けサービスSITURAEMONが、KANADEMONO全体の成長をどのように後押ししていくのか注目したい。

1 2

取材

阿波 岳 / ダイヤモンド・チェーンストア 編集記者

大学卒業後、社会の荒波にもまれる日々を経験。そこで書籍や会報誌の編集に携わるうちに、メディア事業への興味が芽生え、今に至る。
趣味は喫茶店巡りと散歩。喫茶店での一杯のコーヒーや、街角の散策を生きがいとしている。
これまで全都道府県を制覇するという小さな目標を達成した。何かを極めたり、制覇したりすることには、なぜか人一倍の熱意を注いでいる。
最近の悩みは、ここ数年で増えた体重との戦い。健康の大切さを意識しつつも、喫茶店のコーヒーに合わせたスイーツや、ランチの大盛りがやめられない。今日もまた元気に「大盛で!」と注文しつつ、明日こそ控えめにしようと心に誓っている。

© 2025 by Diamond Retail Media

興味のあるジャンルや業態を選択いただければ
DCSオンライントップページにおすすめの記事が表示されます。

ジャンル
業態