「奪われる」側から「奪う側」になる
賃上げによる正と負の影響
5年前、コロナ禍の巣ごもり需要で一躍脚光を浴びたホームセンター(HC)。しかし、その勢いは続かず、2021~23年の3年間は反動減に苦しんだ。24年は気候要因などが追い風となり明るい兆しも見えたが、本格的な回復には至っていない。今年はどのような1年となるだろうか。
まず、マクロな経済環境を見てみよう。25年のカギとなるのは賃上げである。賃上げはHC事業者にとって、ポジティブ・ネガティブの両面の影響が予想される。
ポジティブな側面は、個人の消費意欲の拡大である。春闘での5%の賃上げ要求がおおむね合意されたほか、政府による手取りを増やす施策に注目が集まっている。ここ数年、コストプッシュ型のインフレにより消費者の節約志向が強まっていたが、消費マインドは回復に向かうと考えられる。真っ先に削られていた余暇・嗜し好こう品の消費回復も期待できるだろう。
ただし、手取り収入は残業時間にも注目する必要がある。オープンワーク(東京都)の調査によると、14~20 年にかけて、約44時間から約24時間へと半減。20年以降は横ばい傾向となっている。
賃上げのネガティブな側面はコストアップに直結する点だ。とくに都道府県別の最低賃金の上昇率に注目すると、首都圏をはじめとする都市部は4%台後半にとどまるものの、地方は6%台、最も高い徳島県は9.38%の上昇となった。主に地方で店舗展開し、パート・アルバイトの比率が高いHCにとって、収益を圧迫する要因となる。
加えて、25年に注目すべき要因としては、第2次トランプ政権の動向と、大阪・関西万博が挙げられる。小売業界は全セクターの中でもトランプ政権の影響を受けにくいとみられているが、関税の引き上げ、米中摩擦などに注目が集まる。
大阪・関西万博は、大阪IR(統合型リゾート)を含めて、関西市場の活性化につながる可能性がある。また、万博が終われば、需給ひっ迫が緩和され、建設資材の高騰が落ち着き、小売業の出店コスト上昇が鈍化していくことも期待される。
拡大する格差、業界再編も
上記のマクロ環境は、HC業界をどのように変えるだろうか。
最も顕著に表れるであろう変化は、企業間格差の拡大である。「消費意欲が拡大する局面では、これまで各社が取り組んできた施策の効果が表れやすい」とUBS証券シニアアナリストの風早隆弘氏は指摘する。その上、人件費増によるコストアップは待ったなしである。それを吸収して収益を改善できる企業とそうでない企業の格差は広がるはずだ。
実際、上場HCの24年度の上期業績を見ると、企業間の格差はすでに広がりつつある。大手HC4社は揃って増収営業増益を達成しているのに対し、準大手以下は苦戦している企業が多い。
企業間格差の拡大に伴い、業界再編が活発化する可能性も高い。ジェフリーズ証券調査部シニアヴァイスプレジデントの柳平孝氏は、株式市場からの圧力に注目する。具体的には、東京証券取引所からの資本効率改善の要請と、アクティビストの影響である。
23年3月に東京証券取引所はPBR(株価純資産倍率:株価÷1株当たり純資産)が1倍を下回っている企業に対して、改善を促す要請を出した。しかし、上場HCの大半はいまだ1倍を下回ったままである。
アクティビストは近年、自分たちの利益を最大化する方向に世論を誘導して、対象となる事業会社を追い込んでいく「公開型」が勢いを増している。キャッシュリッチで、かつ、成長に向けた投資が滞っている企業はとくにねらわれやすい。
また、フロンティア・マネジメント(東京都)執行役員の彦工伸治氏はM&A(合併・買収)の性質が規模拡大型からバリューチェーンを高める垂直型へと変化してきていることを指摘する。プライベートブランド(PB)商品の開発体制を強化するメーカー機能を持つ企業や、テック企業、他業態との合従連衡も進みそうだ。

HC業界では20年のアークランズ(新潟県)によるビバホームの買収以降、大型再編は鳴りを潜めている。しかし、いつ再び動き始めてもおかしくない状況である。