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カタログ通販、EC駆使し売上過去最高!シニア女性の心つかむハルメクの戦略

50代以上の女性から高い支持を集め、国内の雑誌販売部数が1位の定期購読誌「ハルメク」を発行するハルメクホールディングス(東京都/宮澤孝夫社長:以下、ハルメクHD)。雑誌「ハルメク」を軸に、「情報コンテンツ」「物販」「コミュニティ」の3事業を主に展開し、20253月期第1四半期決算では売上収益が過去最高を更新した。近年はカタログ通販やEC、店舗といった複数のチャネルを駆使した物販事業がとくに伸長している。いかにして女性の心をつかんでいるのか。ハルメクHD広報室長の入山真一氏に、戦略と展望を聞いた。

定期購読誌「ハルメク」

ヒット商品は顧客の「声」から

  ハルメクHDの物販事業は、50代以上の女性が生き生きと過ごせるように、年齢によって変化していく心と体、暮らしの悩みをサポートする商品を提供することをめざしている。開発プロセスにおいて重視するのは、顧客の声の徹底的な収集・分析だ。そうした作業を経て商品政策を行い、ラインアップの約8割をオリジナル商品が占める。入山氏は「ハルメクのサービスの特徴は、先入観を排除し、顧客理解を徹底すること。思い込みを捨てる、わかった気にならないという点を重視している」と強調する。

 顧客の声の収集、分析に使っているのが、47万人以上の定期購読者を抱える雑誌「ハルメク」に同封した読者からの感想や意見が書き込まれたハガキだ。「短いお手紙」と呼ばれ、毎月約2000通もの反響が届く。顧客の声を収集する方法はハガキだけにとどまらない。コールセンターへの問い合わせのほか、社内のシンクタンク「ハルメク生きかた上手研究所」主導のアンケート調査やグループインタビューなど、独自の手法によりシニアマーケットの動向を把握している。さらには、試作品のモニター使用や試食会といった機会を通じて顧客と交流し、顧客のリアルな声に耳を傾ける。アンケートの回答や新商品のモニター、雑誌の取材などに協力する「ハルトモ」は4千人を超えた。

 集められた顧客の声はデータ化され、商品開発担当者はもちろんのこと、グループの社員にも、個人が特定されない形式で共有される。そうして後の商品開発や特集企画に反映されていくという。

ロングセラー商品の「人参ジュース」

 実際に、顧客の声を端緒としたヒット商品や雑誌の人気特集も生まれている。たとえば、19年間売れ続けているロングセラー商品「人参ジュース」は、読者から寄せられた「健康に良いレシピを家庭で手間をかけずに取り入れたい」という声が商品開発のきっかけだ。

 同様に、特集にも読者の声は生かされている。たとえば、現在は「ハルメク」で高い人気を誇るスマホ特集は、かつては読者アンケートの満足度が低かった。読者のニーズを探るため、アンケートを分析したり、対面で読者の意見を聞いたところ、スマホ画面をタップする動作を苦手としていることが判明した。シニア世代がスムーズにスマホを扱えないのは想像に難くない。そのうえで、躓いているポイントを徹底して調査し、解決策を示すのがハルメクHDの特徴だ。タップする力加減を「指の腹でゴマ粒を拾う感覚」と提案したところ、大きな反響があったという。

 今では毎年、読者のデジタルについての熟練度などを調査したうえで特集の切り口を提案しており、数万人単位での新規顧客の獲得につながっているという。顧客のリアルな声をもとに、思い込みを排して生み出される商品・コンテンツだからこそ、顧客の根強い支持を獲得しているというわけだ。


 

事業間連携が生み出す相乗効果

 ハルメクHDのもう一つの特徴としては、「情報コンテンツ」「物販」「コミュニティ」の3つの事業が密接に連携し、シナジー効果を生み出している点が挙げられる。

 同社を象徴する商品の1つが、「ハルメク 健康サポート・骨盤底筋サポートショーツ」(以下、「骨盤底筋ショーツ」)だ。同商品が生まれたきっかけは、「ハルメク」に掲載した「尿漏れ対策」に関する特集記事だったという。「エクササイズをしても対策が難しい」といった読者の声を受け、オリジナル商品「骨盤底筋ショーツ」を開発、物販事業で販売を開始した。さらには、骨盤底筋を鍛えるためのオンライン講座など、関連するイベントも開催。「骨盤底筋ショーツ」は今や看板商品のひとつとなった。

  3つの事業が果たす役割を、入山氏はこう解説する。「情報コンテンツ事業は、顧客の求める情報を届けるとともに、新規顧客獲得の入口としての役割も担っている。物販事業は、この世代ならではのお悩みに応えた高品質かつ顧客のニーズに合った商品を届ける。コミュニティ事業は、年間200本のイベント開催を通じて顧客との距離を縮め、『ハルメクコミュニティ』を形成する場となっている」。

2022年2月にオープンした「ハルメク おみせ ジェイアール京都伊勢丹店」

 物販事業においては、リアル店舗の出店にも注力している。15年に「大丸福岡天神店」(福岡県福岡市)に初出店して以降、全国の百貨店を中心に店舗数を拡大中だ。24年度は7店舗をオープンし、直近では10月、「松坂屋上野店」(東京都台東区)に出店した。リアル店舗を出店する目的は、顧客が商品を実際に手に取って試したり、販売員から商品の説明を受けることで、ECやカタログ通販では得られない購買体験を提供するためだ。また、百貨店を訪れるハルメクの会員以外の消費者との接点をつくり、新規顧客を獲得する拠点としても大きな役割を担っている。

 いずれの事業も根底にあるのは、ハルメクHDの経営理念『50代からの女性がよりよく生きることを応援する』だ。「すべての事業は経営理念を実現するためにあるという意識は強く社内に浸透している」(入山氏)。そうした姿勢が顧客に寄り添ったサービスの提供につながっている。

「プレシニア層」獲得へ新施策

  順調に顧客を獲得しているハルメクHD。今後の主な課題として入山氏が挙げるのは、現在50代を迎えている団塊ジュニア世代、いわゆる「プレシニア層」の開拓だ。

 新顧客層の開拓には、「人参ジュース」「おせち」「骨盤底筋ショーツ」のような看板商品を新たに開発したり、ブランド力を強化したりといった商品戦略が求められる。全社的にヒット商品の開発をめざしており、靴やインナー、コスメなどのカテゴリで『ハルメクブランド』を確立させたい考えだ。

アンケートや読者による試食会を経てつくり上げるハルメクのおせち

 また、情報サイト「ハルメク365」のコンテンツ拡充やSNSを介した情報発信など、デジタルでのアプローチにも注力する。プレシニア層は、デジタル媒体やツールに馴染みのある世代。ニーズに応えるには、アナログを好むシニア層とは異なる訴求媒体やコンテンツの提供方法を強化する必要がある。

 「50代以上の女性を取り巻く環境やニーズは常に変化している」と、入山氏。そのうえで「シニアマーケットに関する情報とノウハウを蓄積してきたハルメクとしては、国内のシニアをターゲットとするビジネスのみならず、今後高齢化が見込まれる海外市場にもひとつのモデルを提供できればと考えている」と海外事業の展望も語った。