行列スイーツ「クニャーネ」仕掛け人、有名店の看板商品だけ販売する戦略とは
名前とレシピだけを継ぐ、「シン事業継承」
柳田氏がクニャーネに出会ったのは2018年に遡る。「たま木亭」の玉木シェフがクニャーネを東京で販売できないかと考えているという話が来た。「たま木亭」は、百貨店や商業施設への出店依頼を一切断ってきた、京都の名店である。
十分に可能性があると思った柳田氏は、「納得いただけるクオリティまで試作するし、人も当社で雇って運営するので、名前とレシピだけ貸して欲しい、ロイヤリティは、売上から規定のパーセンテージを支払う」という約束で開発を始めた。
この方法はさまざまなケースで応用できる、と柳田氏は言う。たとえば、ファンがついているけれど跡継ぎがおらず、店を畳んでしまう場合。「店ごとのM&Aや事業継承をしたい」となるとオーナーには抵抗があるが、名前とレシピのみなら受けやすいのではないか。「失われてしまう味を残していくためにも、新しい事業継承のかたちとして広めていきたい」と力を込める。
生地にOKが出るまで、2年間京都へ
だがクニャーネのレシピ再現は、思った以上に簡単ではなかった。まずクニャーネの冷凍生地を作ってくれる工場がみつからない。
製法が難しく、さらに、生地を紐状に切ってホーン型(金属製のパイプ)に巻きつけるのは、手作業なのだ。このような手間のかかるものを、引き受けてくれる工場は、なかなかない。
なんとか生地の工場がみつかったと思ったら、今度はクリームも難題だった。工場で、原材料として卵を使う場合は「液卵」といって、すでに卵を割ってかき混ぜている状態のものを使うが、シェフから「生卵を使って欲しい」と要望があった。だが卵の殻には菌が付着していているから工場側は持ち込みたくない。柳田氏はいろいろと探して、対応してくれる工場を見つけ出した。
生地は工場が決まってからもサンプルを持って2週間に1回、シェフのOKが出るまで2年間京都に通った。クリームも同様で1年かかっている。
「そこまでやってもお客さまには伝わらない微妙な違いかもしれない。だが、あくまで、シェフが考えたレシピを再現することが私のビジネスの根幹」(柳田氏)