低価格帯が主流の靴下市場で、日本製にこだわり、履き心地や耐久性、デザインを追求する靴下専業企業「タビオ」(大阪府)。主力のスタンダードブランド「靴下屋」のほか、俳優・窪塚洋介さんがアンバサダーに就任して話題を呼んだ「タビオメン」、プロも認める機能性が強みの「タビオスポーツ」など、数々のブランドで注目を集めている。2023年11月には、カルバン・クラインやポロ ラルフ ローレンなど多様なライセンスブランドを擁し、レッグウエア事業を中心に展開する老舗企業「ナイガイ」との資本業務提携を発表。他社と一線を画すユニークなビジネスモデルで、海外にも着実にファンを増やしている。さらなる事業拡大をねらう同社の代表に話を聞いた。
高品質ニーズを確実につかみ靴下市場の流れを変える
1990年代中盤から「靴下」を取り巻く環境は大きく変化している。大手カジュアルチェーンによる「3足1000円」に代表される低価格商品が浸透したことで、消費者のあいだに「靴下にお金をかけない」という風潮が広がり、小売・メーカー側にも「靴下は海外で安く生産し、安く売る商材」というイメージが定着。靴下業界自体も縮小に向かい、衣料ほどではないが、国内の生産拠点も1990年代と比較すると激減している。
一時期は産業自体がなくなるともささやかれた中、独自路線で成長を続けているのが靴下専業のタビオだ。タビオは業界の流れに逆行するように、一貫して日本製で履き心地や耐久性、デザインにこだわった商品戦略を推進。主力ブランド「靴下屋」をはじめ、着実に消費者の支持を集めてきた。最近では低価格帯で履き心地にこだわった商材を売り出す企業が増えているものの、タビオの越智勝寛社長は「そもそも同業と思っていない」と言い切る。
タビオが打ち出す靴下の競争優位性は「履けばわかる」と越智氏は強気だ。同社が独自で定めたハイクラスの規格をクリアする商品をつくれるのは、現状では、伝統的な製造方法を継続して守る国内の工場のみなのだという。
タビオでは、先に「小売価格」を設定しないという。製造工場が利益を出せる価格で卸し、それを元に商材の価格を決定する。そうして生み出される商品は、靴下としては“高級品”に位置するが、230店を超える店舗を展開できるほどの実績のとおり、「ニーズは確実にある」と越智氏は熱を込める
「今私たちがニッチだとしたら、ニッチをマスにするのは努力次第。業界全体が低価格に向かっているとしても、タビオは日本製の品質にこだわるために、SPA(製造小売)の仕組みが必要だった。『安いから買う』ではなく、『お客さまに認められて買ってもらう』ということをめざすうえでは、トレンドをつかんでいく必要もある」(越智氏)
柔軟にトレンドをデザインに反映するため、タビオでは店舗ごとの売上高やSKUを、できる限りリアルタイムで把握し、工場と共有する独自の仕組みを構築。計画生産や計画販売は一切していないという。
各店を標準化せず個性を出すユニークな経営戦略とは
店舗フォーマットの考え方について、越智氏は「採算性が合うかどうかだけ」と話す。靴下は広いファッションジャンルに対応することが求められる。そのため、タビオでも、一般的なアパレルブランドのように「エレガンス系」や「ストリート系」といったジャンル別のフォーマットにはなっていない。
それよりもタビオが重視しているのは、出店場所との「親和性」だ。ファミリー層が多いGMS(総合スーパー)であれば、「高級感」が出過ぎないように柔らかい雰囲気にまとめ、「ららぽーと」のような広域のショッピングモールに出店する場合はメンズラインの商材も厚めに揃える。発見を求めるお客が多い「ルミネ」のような駅近の商業施設内のショップは“尖った”雰囲気を演出するなど、立地や客層、環境に合わせた店づくりを展開しているという。
過去、タビオでは店舗を標準化しようとした時期があったものの、売上が低迷。「365日、52週MDが流行った時期に(標準化を)試したが、面白くない店ができるだけだった。宣伝費がかかり、10 年程度しか保たない(店になった)と感じた」と越智氏は話す。その教訓を生かし、以降は、売場の環境を一番肌で感じている店長に仕入れや売場づくりを一任。前会長の越智直正氏の遺志を引き継ぎ、「クリアできなかったときにネガティブな感情を伴う」という理由から売上目標やノルマも設定していない。
タビオが数値目標で唯一掲げるのは「メンズブランドの50億円」の達成だ。2010年代に5億円程度だった売上高を2025年までに50億円まで引き上げるという目標だが、これはあくまで、メンズラインの製造を依頼している工場をタビオだけで支えられる生産量から算出したもの。すでに40億円が射程圏内に入っていると越智氏は話す。
店舗づくりのスタイルは海外においても同様だ。日本の約2倍の価格で商材を販売している中国では、ジュエリーショップやコスメショップのような高級感を演出。フランスやイギリスでは、世界でも類を見ない「靴下専門店」というエッジのある特徴を前面に打ち出すため、商品の点数を絞り込み、展示会のような売場としている。
「パリの店舗が尖っているのは、パリがそのような街だから。おかげさまで、パリコレで当社の商品が使われたり、有名ブランドからのオファーもいただいている。映画の衣装として声がかかることもある」(越智氏)