2016年に始まったショップトーク(Shoptalk)は既に米小売業むけカンファレンスではNRF(全米小売業協会)のNRFビッグショーに次ぐ規模だが、日本ではまだ知名度が低い。しかし、テクノロジーやスタートアップとの結びつきが強く、Retail DX(リテールDX)の観点から明日の小売業界を考察できることから毎年注目されている。3月末にラスベガスで開催されたショップトーク2023ではさまざまなテーマが議論されたが、なかでもグローバルなテーマであるサステナビリティにおいて循環経済の小売事業モデル構築に取り組んでいる企業達の苦労と学び、そして収益化についての議論を紹介したい。
オンラインリセールのスレッドアップ
製品価値の高い中古品へシフト
全米最大の中古ファッションのリセール(再販)マーケットプレイスを展開するスレッドアップ(ThredUP)は。21年3月にナスダック上場した同社の22年度売上高は2億8838億ドルだ。その事業モデルは委託型で、セラー(販売者)は同社に製品回収専用郵送袋を請求し、同社に配送。製品は検品・洗濯・商品登録ののちマーケットプレイスで販売され、スレッドアップから買い手へと発送される。販売後はスレッドアップがサービス料を差し引いてセラーに売却益を支払う。価格決定やマーケティングも同社がAIやデータサイエンスを活用して行う。
このB2C事業以外にギャップ、Jクルー、トミーヒルフィガーなどの大手ファッションブランドが自社展開するリセール事業のプラットフォーム開発とオペレーションを支援するB2B事業も展開している。
セッション「リセール、アップサイクル製品、循環経済」に登壇したアンソニー・マリノ社長は、同社顧客の50~60%が若い世代でTikTokや友人間の口コミで広がっていること、価格が安いからではなく環境に良いなどの理由で顧客はわざわざ中古品を買っていることを説明した。しかし市場拡大と共に課題も出ており「マーケットプレイスで売るのに(以前より)時間がかかるようになってきている。最近まで中古品を受け取って検品・洗濯し、準備して販売するまで12週間かかっていたが、現在はキャパシティを拡大し、6〜7週間に短縮した」と再販に不可欠なリバースロジスティクス(還流物流)業務の難しさに言及した。
上図の通り、売上急成長を続けるスレッドアップだが、上場以降も当期損失を出し続け、黒字化のシナリオが見えていない。今後の売上拡大は消費の変化という追い風があるものの、利益率拡大、経費削減は必須だ。同社は売価設定の際、価値の低い製品には売価を低く設定し、在庫回転を上げると同時にセラーに大きな利益が残らない仕組みにしている。この理由については「もし消費者が最初(新品購入時)からクオリティの高いものを買えば、再販する時にもそのバリューを反映した利益が取れ、早く換金できる」として、消費者を啓蒙する意図を語った。製品単価が高くなれば売上・利益も上昇し、リバースロジスティクスコストを吸収しやすくなる。リセール事業は環境にも消費者にも一見ウィンウィンのビジネスモデルのようだが、コスト構造が大きな課題だという現実が伝わってきた。
企業内循環経済モデルを構築した
アーバンアウトフィッターズ
ヤングファッション大手のアーバンアウトフィッターズ(Urban Outfitters)は19年に循環経済における新事業モデル構築を目指し、レンタルサービス「ヌーリィ(Nuuly)」を開始した。自社ブランドを含む300以上のブランド、1万5000以上のスタイルの中から月額88ドルで6スタイルまで借りることができる。21年にはリセールマーケットプレイス「ヌーリィ・スリフト*(Nuuly Thrift)」も開始した。*スリフトショップは中古販売店という意味がある
23年1月期のヌーリィ事業売上高は1億2964万ドル、前年比272%でアーバンアウトフィッターズにおける売上高構成比は前年度の1.0%から2.7%へと成長した。同社は22年に初めてサステナビリティに関する「インパクトレポート」を発行し、全社的なソーシングや配送時の廃棄削減、ディストリビューションセンターやオフィスのエネルギー使用の削減、そして「ヌーリィによって当社は大手ファッション企業初のリテール、レンタル、リセール、ホールセールを運営する企業となった」と報告している。
セッション「収益性とサステナビリティを改善する新たな戦術と事業モデル」に登壇したチーフテクノロジーオフィサー兼ヌーリィ・プレジデントのデイヴ・へイン氏は「循環モデルをどう企業活動に取り入れるかが重要だ。配送もCo2排出量をオフセットし、配送に用いるコンテナもサステナブルな素材を使用している。また、昨年1年間で補修した製品数は5万着にもおよんだ」と説明した。ビジネスの状況については、「15万人の顧客がいて、リテンションレート(既存顧客維持率)は半分。2019年(ヌーリィ開業時)の顧客がまだいて、顧客はこの事業モデルにバリューを感じてくれている。ヌーリィ・スリフトについては、開始からまだ半年程度だが、先行していたレンタルビジネスの顧客ベースの存在が大きい(スリフト事業の利用者拡大に寄与している)」と述べた。へイン氏は「財務的サステナビリティも重要で、ヌーリィはまだ赤字だが、2023年度末には黒字化の予定だ」とコメントした。レンタルとリセールは同じ専用設備を使うので投資回収を早めることができるという。
スレッドアップはリセール専業、アーバンアウトフィッターズは新品・中古品を扱う複合チャネルブランドだ。製品回収・補修・再販という既存の施設・業務ではまかなえない機能に投資しながら収益をいかに生むのか、まだ成功のパターンは見えていないが、先駆企業たちの情報共有は後続企業にとって大きな学びとなりそうだ。