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「甘〜い焼き芋」の自販機ビジネスが、社会貢献に繋がる理由とは

近年、「安納芋」や「紅はるか」などの人気ブランドがファミマ、ローソンなどでも販売が始まるなど、「第4次焼き芋ブーム」などと言われブームを巻き起こしている。そうした中、自動販売機で焼き芋を販売し売上を伸ばしている宮崎県のユニークな企業がある。「農福産業」だ。同社の焼き芋は焼き上げから包装まで、障がい者の手によって行われており、その社会貢献度の高さも注目を集める要因の一つだ。北は青森から、南は沖縄まで焼き芋自動販売機を設置する同社の戦略、焼き芋ビジネスの可能性を聞いた。

農福産業の営業責任者、松岡氏。自販機の設置に全国を飛び回っている。

糖度40度以上の「マンゴーより甘い」焼き芋が自販機で買える!

農福産業(宮崎県日向市)は、全国に45台の焼き芋自動販売機を設置するユニークな企業だ。児玉雄二社長が先代から譲り受けた1ヘクタールの農地の使い道に悩んでいたところ、障害者施設の代表から、「障害者の賃金が安く、働く場が少ない」との相談を受けた。それならば、自社で雇うことで障害者の給料アップにも繋がればと考え、玉ねぎや芋の農作を始めたのがきっかけだ。イベントに出店して焼き芋を販売したところ売れ行きは順調だったが、障害者は土日、祝日は働けない。止むを得ず、一般のアルバイトを雇ったところ、アルバイト代を払った後は利益はほとんど残らなくなってしまった。

 それを見かねてか、ある時、児玉社長はアルバイトスタッフから逆に缶コーヒーをご馳走になった。そのとき、「缶コーヒーって温かいな。この缶に焼き芋を入れたらどうだろう。温かいまま出せるかな」と閃いたそうだ。

 その後、農作物に精通した開発スタッフを招き、障害者のスタッフとの二人三脚で焼き芋の製造を始めた。2019年9月、地元で、同社初となる焼き芋自動販売機を設置した時には長蛇の行列ができるほどだったという。その後、各施設や自治体などにも売り込みを続け、今では設置された道の駅や温泉施設に設置する初日など多い時には、1500個の焼き芋が売れることがあるという。今後は、大きいサイズのみに変更する予定があるというが、現在は、110グラム(400円)と190グラム(500円)のそれぞれに温かいものと、冷たいもの計4種類の商品から選べる。スーパーで売られる焼き芋と比べると、2倍近い価格だが、人気の理由はどこにあるのだろうか。

 答えは、その甘さにある。農福産業の焼き芋は糖度40度以上で、マンゴーより甘く、スイーツ感覚でスプーンを使ってすくって食べる人も多いそうだ。営業責任者の松岡氏は、「『ねっとりした甘さ』が他の焼き芋より際立っていると思います。先般も南道後温泉に自販機を設置させていただいたところ、長蛇の列が出来ていました。毎日、購入されている方もいらっしゃいます。」という。

農福産業の敷地内にあるゲストハウスと焼き芋自販機

 農福産業では、40度以上の糖度を実現するために、「キュアリング」と呼ばれる製造手法を採用する農家からさつま芋を仕入れている。これは泥がついたままの生のさつま芋(紅はるか)を40日間以上冷蔵保存する手法だ。「お芋は賢くて、冷たいところに長時間いると、自分を守るために中のでんぷん質を糖分に変化させるそうです」(松岡氏)

 この製造プロセスの効果は絶大で、一口で、キュアリングを経た焼き芋とそうでないものの違いが分かるほどだという。手軽に美味しい焼き芋を楽しめる裏には、こだわりの製法が隠されているのだ。また、農福産業では、「焼き芋を缶に入れて売ること」で特許を取得している。

拡がる「障がい者自立支援」のための「焼き芋自動販売機」ビジネス

「農福連携(農業と福祉)を基軸に、障がい者の所得向上と働く場所を提供し、社会に貢献する」が経営理念の農福産業。焼き芋をはじめ、その他の野菜を障がい者施設と協力して栽培してきたが、問題は農業が薄利だったことにある。そこから課題解決のために「焼き芋を缶に入れて自動販売機で売る」というビジネスに乗り出した。そのことによって、障害者は、焼き芋の製造から袋詰めまで、工場での作業に集中できる。作業効率は上がり、たった2年間で、現在は、14府県に自販機が設置されるなど、大成功を収めた。

 こうした焼き芋自販機の人気は、全国的な障がい者の雇用にもつながっている。埼玉県内にある障害者施設では、農福産業と同じ焼き芋をつくるための設備を置く予定だ。ゆくゆくは、地元産の焼き芋を、そのまま埼玉に設置した自販機に詰めることができるようにするプランだそうだ。

 宮崎県を始め、九州、四国、関東では、自動販売機の焼き芋の補充や、スティール缶の洗浄、売上金の回収なども障がい者が担っている。「農業を手伝ってもらうというビジネスはこれまでもあったと思うが、製造から販売まで、ビジネスモデルの中核を障がい者の方に担ってもらうのは、私たちが初めてではないか。そういう意味では、皆さんのお役に立てているのではないかと思う」(松岡氏)

 農福産業の取り組みはマスコミを通して伝えられ、多くの客がその理念に共感し、焼き芋を買っているという。

工場内で焼き芋の袋詰めなどの作業を行うスタッフ

夢は全国にフランチャイズ展開

 12月からは「そごう横浜店」の焼き芋フェア(12月1日〜8日)を経て、地下の食品売り場に自動販売機は常時設置になるなど、引っ張りだこの農福産業。これからの課題は、焼き芋の品質を保ちながら、いかに生産量を担保するかだという。

 松岡氏は、「あくまで同社は障がい者の賃金アップに主眼を置いているため、現在のところは需要に合わせるために生産量を急激に増やすことは考えていない」という。

 その代わりに、生産したさつま芋を焼き芋にするまでの工程を担う場所を、全国各地にフランチャイズ展開することを考えている。現在、すでに稼働している埼玉県の障がい者施設をはじめ、各県に製造拠点ができれば、焼き芋自動販売機の設置も障害者雇用の両方の需要を満たすことができる。

 将来的には、全国各地で採れた地場のさつま芋を自動販売機で売り『ご当地焼き芋コンテスト』を開催するのが夢だ。

 ユニークな戦略で焼き芋を販売する、農福産業。今後もトレンドを見据えつつ、美味しい焼き芋を誠実に、会社の出発点として拡げていくことだろう。

農福産業 代表取締役 児玉 雄二氏